2021年11月26日
視覚障害の社会課題と向き合うことで生まれたイノベーション

全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(以降、DCON)は高等専門学校生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品を制作し、その作品によって生み出される「事業性」を企業評価額で競うコンテストです。ウエスタンデジタルは、この「ものづくりに密着した『現場感のある』『実践的な』ディープラーニングの活用によって、『社会課題解決に取り組む』」コンセプトに共感し、特別協賛というかたちで参加しています。最終回となる今回は、DCON2021で3位を獲得した北九州工業高等専門学校「Nitkit Shigeru Lab」チームの作品をご紹介します。

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環境、倫理など、資本経済の拡大でははかれない問題が世界で取り沙汰される昨今。SDGs(Sustainable development Goals)が定着しつつあり、SRI(Socially Responsible Investment・社会的責任投資)など企業としての社会的責任も改めて重要性が高まっています。今回、DCON2021 でこの分野に挑戦したチームが、北九州工業高等専門学校のNitkit Shigeru_Lab(ニットキットシゲルラボ)です。

彼らが注目したのは、視覚障がいにまつわる社会課題です。「駅構内で視覚障がい者が駅員の手を借りて移動する場面に遭遇し、より自由に行動ができないかと考えた」と彼らは言います。

現在、31万人ともいわれる国内の認定視覚障がい者の方々は、外出の際に必ず「白杖」を携帯するか、あるいは「盲導犬」と共に移動することが義務付けられています。任意で「ガイドヘルパー制度」などの利用も可能ですが、必ずしも満足のいく体制は得られず、それぞれに課題があります。「白杖」には歩行訓練に約1年の期間が必要であり、「盲導犬」も申請してから1-2年待つ必要があるうえに、寝食を共にした家族同然の犬と別れるときの心的負担もあるため、利用が拡大しません。また、人が生活全般をサポートするガイドヘルパー制度は、対応している事業所が少なく、そして利用できる地域も限られています。

もっと手軽に利用できるツールは出来ないか、とNitkit Shigeru Labが提案したのが、作品「盲導Cane(ケーン)」です。杖の形状をした視覚障がい者向けの歩行補助装置で、カメラによって点字ブロックを認識します。しかも、方向を示す「誘導ブロック」と、障害物などを事前に案内する「警告ブロック」の2種類を検出し、誘導ブロックについては方向を示すラインの「縦」と「横」の違いまで区別します。警告ブロックを認識した場合や誘導ブロックから逸れてしまった場合などに、バイブレーションによって利用者に通知してくれる、優れた機能をもっています。

日本発のソーシャルイノベーションとして、世界を見据える

視覚障がい者が外を歩くためには、点字ブロックだけでなく、様々な障害物を認識する必要があります。「盲導Cane」は、搭載しているCNN(畳み込みニューラルネットワーク)に障害物を学習させ、将来的には今まで以上の機能が追加され、利用者の安心をさらに増やしていくことが可能になるとチームメンバーは提案します。人やクルマ、階段などの段差を認識して案内してくれる多機能「盲導Cane」にバージョンアップした際には、自転車のように街に設置してレンタルできるような仕組みも、将来構築できるかも知れません。

 

Nitkit Shigeru Labの調査によると、現在、世界には2億8,500万人の視覚障がい者が存在しているといわれています。また点字ブロックを設置している国は75か国あるそうです。Nitkit Shigeru Labは「盲導Cane」を購入ではなくサブスクリプションとして利用してもらうことを提案しました。サブスクとすることで製品のアップデートが可能となり、例えば国や地域ごとの点字ブロックや歩道/車道の区別、横断歩道、信号機などを登録し、ソフトウェアアップデートを行うことをビジネスプランに盛り込んでいます。新たな指標の追加が可能となることで、世界展開も視野に入れることができます。

彼らはさらに、国内利用者の経済的負担の軽減を目的として補助金制度にも注目し、補装具費支給制度を活用して、費用の一部(10%)を負担するだけで利用できる策も提案しています。

チームのメンバーは、「ビジネスプランの完成に最も苦労しました。今まで経験したことのないビジネスを練るという点で、初めは何から考えて良いかわからないような状況でした。そんな中でメンターの方にアドバイスをいただき、チームで話し合いながらビジネスモデルを完成まで持っていきました。」と振り返ります。また「何度も内容を変更して、練り直しました。補助金を利用するにあたって何が必要なのか、どこに申請するかなどを一生懸命に調べました。」と、製品開発や事業計画に加え、障がい者に関する法制度についても苦労して調査を行ったようです。

彼らをサポートされた北九州工業高専の谷口先生は、「ビジネスを理解することは非常に重要だと思います。卒業研究などではすぐに利益に結び付かないテーマを扱うことが多いので、これらを通してビジネス開発と基礎研究の両輪を知ることが重要だと思います。」と、DCONへの参加意義を語られました。

今回の作品を通してNitkit Shigeru Labチームメンバーの著しい成長が見られたようで、本当に素晴らしい経験をされたのだなと感じました。

北九州工業高等専門学校「Nitkit Shigeru Lab」チーム DCON2021第3位受賞の瞬間

ウエスタンデジタルは、DCON参加チームのように、意匠惨憺しながらも「やりきる」みなさんを、そして世界へ羽ばたくみなさんを、心から応援したいと強く思っています。

【DCONブログご紹介】
第一話:全国高等専門学校から、AIを日本産業の力に ウエスタンデジタル、ディープラーニングコンテストに協賛
第二話:総合2位、並びにウエスタンデジタル賞受賞チーム 「鳥羽商船高等専門学校」
第三話:最優秀賞受賞チーム「福井工業高等専門学校」

【ご参考】
北九州工業高等専門学校ホームページ
DCON2021(昨年度)ホームページ
DCON2022(今年度)ホームページ

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