2024年04月12日
ロボティクス・データ: 新しいテクノロジーの活用

初期のロボットは工場の片隅から進化を続け、一世代前なら苦労していたであろう複雑で手間のかかる作業に果敢に取り組んでいます。コスト削減と技術の進歩に対する経済的な動機で、今やロボットを使用して生産性と安全性を向上させることはめずらしくなくなってきています。SFの世界にあるような二足歩行のヒューマノイドロボットとまではいきませんが、あらゆる種類の完全自律型のロボットが、さまざまな場面で活躍しています。

しかし、最先端のテクノロジーの可能性や効果を最大限に引き出すには、わたしたち人間の努力が必要です。特にロボット技術の場合、どのような種類のデータを収集するのか、そのデータをどのように保存し、またアクセスするのか、さらに、そのように洗練されたロボット同士が人間とどのように共存し信頼を得ていくかといった、データに関する重要な課題があります。

増大する課題と解決策

1960年代に産業界に登場して以来、ロボットは生産性と安全性の向上に貢献してきました。ロボットは工場の現場では主力になっていたものの、新型コロナウイルスのパンデミックまで、非製造業の世界に本格的に進出することはまれでした。コロナ禍における世界的な健康危機が、ロボットに可能な労働は何か、そして人間がすべきことは何かに対して、大きな影響をもたらすことになりました。

「新型コロナの発生は大きな引き金になったといえます」と、屋内環境のセキュリティ、安全、保守検査に高い専門性をもつロボット企業、Indoor Roboticsの最高事業責任者Ofir Bar Levav氏は述べています。「ロボット工学は4つのDとの関連性が非常に強いです。それらは退屈(dull)、汚い(dirty)、難しい(difficult)、危険(dangerous)な仕事です。特にそのような職種には人々は好んで働きたいと思わないため、ほぼ通常の業務体制に戻った現在、4つのDに関連する業務をかかえる企業は、労働者の確保と維持に苦労しています」と彼は語ります。

同時に、技術の進歩はロボット工学の限界を押し広げています。堅牢な機械学習と有能なエンジニアに支援されたロボットは、目覚ましい進歩を示しています。人手不足の解消と経済効果、そして技術力の劇的な向上によって、企業へのロボット導入は急速に進んでいるのです。

「2年前と比べると、ロボットに対する信頼と導入意欲は格段に高くなっています。2年前にはSFだと思われていたようなことでも、今では“是非やってみよう”、“上手くいくか見てみよう”という反応になってきています」とBar Levav氏は語ります。

ロボティクスデータの収集とトレーニング

自動運転車と同様に、ロボットは膨大なデータセットと機械学習によってトレーニングされており、マシンが環境を手際よくナビゲートしてタスクを完了できるようになるまで徹底的にシミュレーションが行われます。無数のテストを実行し、得られたデータに基づいて反復学習を行うことで精度を高め、信頼性を高めていきます。

「当社のロボットは何千件ものケースをテストし、シミュレーションを重ね、トレーニングされていますが、より高い精度を求めて、新しい現場ではさらにデータを収集し、完成度を高めます。データは多ければ多いほど良いのです」とBar Levav氏は述べます。Indoor Roboticsのドローンは完全自律ミッションの実行中に最大100MB/分のデータを収集します。世界中でミッションを実行する多数のドローンによって、得られるデータの数量は短期間に、そして大量に増えます。これは資産の保護を求める顧客やIndoor Roboticsにとって極めて貴重なデータになります。

「例えばガス漏れ、例えば人の動き、あるいは施設内の気温上昇など、サンプルデータが多ければ多いほど、システムの充実度は高まります」とBar Levav氏は述べています。「当社の汎用システムの運用が改善されるだけでなく、当社のシステムを利用いただいているお客様それぞれ個別の環境で働くドローンたちの性能の向上にもつながるのです」。

一方で、非常に特殊な環境下でロボットを活用するような、独自のソリューションを構築しようとしている組織や企業には、必ずしも有益とはならない場合があります。企業が独自の目的を達成するために特注のロボットを製造し、運用するには、一般的な企業で活躍しているロボットのデータとは別に、独自の環境下における膨大な量の知識とエンジニアリングリソースが必要であり、大企業でなければ手が届かないのが現実です。空間AIとコンピュータービジョンのプラットフォーム企業であるLuxonisは、これらの課題を解決し、ロボット工学を前進させることに努力しています。ロボットの目、耳、頭脳であることをうたう彼らLuxonisは、ロボットシステム用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアソリューションを提供している先進企業です。

「ロボットは、多数のテクノロジーと連携する必要があるため、一企業による大規模な導入は予算的にも環境的にも非常に困難でした」と、Luxonisの最高執行責任者であるBradley Dillon氏は述べています。「そのプロセスを容易にするために登場したのが我々Luxonisなのです」。

Luxonisは、コンピュータービジョンとロボティクスのためのプラグアンドプレイの構成要素を構築しています。高度なコンピュータービジョンシステムが、何ギガバイトものデータを収集します。その後、デバイスはオンボードコンピューティングを活用して、そのデータをわずか数キロバイトに削減し、データ収集を合理化します。このデータは、LuxonisのプラットフォームであるRobotHubで分析可能になります。顧客はRobotHubで、収集するデータや保存期間などを制御できます。

Luxonisは、プロトタイプのシミュレーションにUnityを使用するなど、ロボット工学の障壁を打ち破るために他の技術も使用しています。テスト用にロボットを物理的に構築するのとは対照的に、Luxonisはビデオゲーム開発プラットフォームを使用してテストを構築、シミュレーションしています。この方法ではデータが完全に注釈付きで出力され、生成速度も速いため、顧客のコスト削減にもつながります。

では最終的な効果は何なのでしょうか。それはLuxonisがより多くのロボットを世に送り出すことに役立つことであり、Dillon氏はそれが良いことであると信じています。

「私たちは、ロボット工学にはあらゆるチャンス(機会)があると信じており、エンジニアに力を与えることに努めています」とDillon氏は述べています。「データ不足など、エンジニアの学習を妨げる障壁は多数存在します。その障壁を低くし、人々が彼らをサポートし、彼らに役立つデータやリソースを提供することで、彼らが学ぶためのオープンな“遊び場”を提供したいと考えているのです」。

ロボットにフラッシュメモリーを搭載

もちろんロボットにはさまざまな形やサイズがあり、ほぼ無限にある状況の中で最適なストレージ・ソリューションを見つけるのは困難な場合があります。ロボットは常に動き回り、周囲の環境と調和する必要があり、膨大な量のデータを収集しながら迅速に対応することが求められます。

「フラッシュメモリーのデータストレージは、高速、小さいフットプリント、幅広い容量という利点から、推奨されるソリューションです」と、ウエスタンデジタルのシニア・プロダクトマーケティング・マネージャーであるNadav Neufeldは述べています。「SSDと組み込みフラッシュメモリーは、ロボットに搭載するストレージとして最適です。産業用および車載用のデータストレージは、過酷な環境条件への対応として使用されることがよくあります」。

さらに、エンジニアが複数のロボットをトレーニングする時は、何が悪かったのか、どのように改善すべきかについての重要な洞察をエラーから得ることができます。このようなシナリオでは、回復力のあるデータストレージの重要性がさらに高まります。

「比較的単純なミッションをこなすロボットでも、反応しなければならない要因は無数にあります。何か問題が発生した時、何が問題だったのかをエンジニアが理解できるように、マシンはデータを収集する必要があります。ロボット工学のブラックボックスのようなものです」とNeufeldは述べています。

そのため、ロボットに搭載されるフラッシュ・ストレージ製品には、高性能・大容量が求められるのです。

人間とコンピューターの共存

あらゆる種類のデータ収集には信頼の問題がつきものです。ロボティクス企業にとっての大きな課題は、人々の信頼を得ることです。まず、ロボットを扱う組織やチームは、ロボットを信頼することから始まるのです。

「私たちが直面している課題は、どちらかというと運用面にあると思います。社員は退社後にオフィスでロボットがとんでもない動きをしていないか心配しています」とBar Levav氏は述べています。「何かにぶつかるのではないか、ロボットが壊れてしまわないか。人々がロボットに対する抵抗が薄らいでいるからこそ、新たな懸念や不安が発生します。これはロボット技術がが成熟してきているのを知っているからこそ、人々はよりロボットを受け入れやすくなってきている証だと思います」。

次に、安全性の問題だけでなく、透明性とプライバシーの問題もあります。どのようなデータを収集し、どこに保存し、誰がデータにアクセスできるかに関する明確なルールや手順が信頼の構築には不可欠です。Luxonisは、最先端のロボット工学を消費者の手に届けることを目的としたオープンソースのロボット、raeの構築中にこれらの課題を直に経験しました。

「raeではすべてがアプリによって制御されますが、データはプロファイルからいつでも削除できます」とLuxonisのDillon氏は述べます。「重要なのは、顧客自身が自らのデータをコントロールできるという確信を持てるようにすることです」。

ロボットが人間がどのように共存していくかは、今後も人間とコンピューターの相互作用の範囲によって決まるのでしょう。しかしそれ以上に、これらの新しいツールの採用には単純な“喜び”や“期待”が存在します。人間とロボットとの交流機会が増えれば、自然と得られるデータも増えることになります。そうすれば、ロボットはさらに上手に人間とやりとりするようになり、人間は日常生活でロボットに対面した時により安心感を覚えるようになります。

一緒に過ごす時間が長ければ長いほど共存しやすくなり、共存による円満なフィードバックループが形成されるのです。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(MARCH 1, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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