2023年05月26日
データが切り拓く自律走行車の未来

自律走行車(AV)の業界では、エンジニア、データサイエンティスト、ビジネスリーダーのすべてが、真の自動運転車の実現は「できたらいいね」という優先事項ではなく、「必ず実現するもの」という必達事項として日々努力を重ねています。しかし、AVの完全実現、大量導入には、AI(人工知能)の訓練をはじめ、大きな課題が残されています。
機械学習モデルのトレーニングや、車両が反応するのに十分な速度のデータの読み取り/書き込みなどを含め、自律走行車の開発では、あらゆる段階でデータを取り巻く課題や障害に見舞われてきました。技術者は、AVアシスト技術が今日提供できる利点と、将来のAVが抱えるデータ上の課題をバランス良く考慮する必要があります。

データトラフィック制御

今日、AVが直面している主な課題のひとつは、データをいつ、どのように送受信するかということです。エンジニアは、車両、クラウド、およびエッジデータセンターの間でデータをいつ、どこで共有する必要があるかという観点から、データの役割を理解することに取り組んでいます。車両では、さまざまなセンサーやテクノロジーがデータを生成していますが、AV内での負荷の高い作業のほとんどがコンピュータビジョンによって実行されています。
ウエスタンデジタルの自動車セグメントマーケティングディレクターであるRussell Rubenは、次のように述べています。「車両には周囲を感知するカメラやデバイスが搭載されていますが、これらは主に安全性を高める目的で使用されています。そこから得たデータの一部はリアルタイムで処理された後、破棄されます。また他の一部のデータは、AIの学習とトレーニングのために収集され、メーカーに送信されます。役目を終えたデータは、後にローカル(メーカー内)で削除されます。これが継続的な学習と改善のサイクルです」。しかしデータに素早くアクセスできない時、車両は自らの行動決定に必要となる新たなデータを入手しなければならなくなります。
V2X(Vehicle to everything)と呼ばれる通信技術は、車両が新たなインサイトを得るための手法の1つです。V2Xは、進化した電気通信システムを活用して、自車と道路インフラ、他の自動車、歩行者、そしてモノのインターネットに属するあらゆるモノとの間で、重要な情報を送受信します。
V2Xは、車両の周囲に何があり、どのように対応すべきかを理解するのに役立つため、AV開発者にとっては、最新のデータ通信のパズルにおける重要なピースと考えられています。車両と他のエンティティ(標識や信号、所在情報、車両や人など)との間の迅速なデータ交換は、ひと(ドライバー)がミラーを見て状況を判断し、スピードを調整したり車線変更するようなことであり、熟練したドライバーにとっては当たり前の行動でありながらも、かつ重要な作業です。
ウエスタンデジタルで自動車メーカーに協力しているフラッシュストレージフィールドアプリケーションエンジニアのMatteo Zammattioは、次のように述べています。「車両は道路上で互いに通信する必要があるので、V2Xの出番が来るのです。自動車は5Gと通信技術を活用し、他の車両に自車の特性や、街灯などの道路インフラの情報も伝えます。業界の企業はV2X通信が鍵を握るソリューションであると考えています」。

交通インフラは近い将来、V2Xがどのように機能するかを示す良い例となります。車両のみならず信号機や標識、監視カメラなどのあらゆるエンティティは、この技術を使ってデータを共有し、走行距離や交差点での平均待ち時間などの情報を共有します。その後、これらのデータはまとめてデータセンターに送信され、交通管理システムによって交通パターンを改善するために活用されます。
V2Xほど高速ではありませんが、データ通信の新たな選択肢となるのがエッジです。エッジは、自動車1台1台が高性能PCとなり、車両へさらに大きなデータセットと高いコンピューティング能力が装備されるため、中央のクラウドコンピューティングセンターとのデータ通信量が削減されることとなり、データのやり取りに時間がかからない(低遅延となる)メリットがあります。クラウドはエッジよりも多くのリソースを提供しますが、車両から最も近いデータセンターであっても数Kmから数十Km離れることになるため、自動車が安全に反応するのに十分な速度が得られない懸念があります。
「5Gの遅延は10ミリ/秒ほどで、エッジコンピューティングでは数十マイクロ/秒、クラウドとの通信は25~30ミリ/秒程度です」とZammattioは説明しています。「しかし、意思決定は瞬時に行われなければなりません」。

オンボードとオフボードのストレージ

車両に搭載したストレージにすべてのデータを保存するには、高速の書き込み性能が求められ、そのデータにアクセスするには、それに見合う読み取り性能が必要になります。そのようなストレージソリューションを構築することは、データ送受信時に発生する遅延の問題を解消するための5Gやエッジデータセンターを実装することと同様に、極めて重要な問題です。
仕様やフォームファクターは変わりゆく可能性がありますが、車載用データストレージとして変わらないのがフラッシュ(フラッシュメモリー)です。自動車という不安定な環境下では、耐衝撃性の高いシリコンウェーハは理想的なソリューションです。その高い性能と信頼性により、自動車メーカーはいざという時にフラッシュの性能に頼ることができます。

今日の自動車用データストレージといえばフラッシュです

とRubenは述べてます。「自動車メーカーは、例えばNAND型フラッシュメモリーを、直接基板にはんだ付けすることで高い耐衝撃性を得たいと考えています」。
環境の変化にとどまらず、車両に搭載されるストレージは、さまざまな変化を遂げることが予想されます。今日の自動車は大量のデータを収集しますが、その多くは使い終わると廃棄されています。Hyundai Mobility(現代自動車)では、同社のAVプロトタイプが毎秒10GBのデータを生成していると推定していますが、保存されるデータは、そのうちのほんの一部です。継続的に書き込み、書き換えを行うには、やはりフラッシュが望ましいソリューションなのです。
このような厳しい環境下で、信頼性が高く、安定した、しかも高速な高性能ストレージを実現するために、ウエスタンデジタルは自動車メーカーと常にコミュニケーションを取り、その高い基準を満たすソリューションを追求し開発しています。
「自動車メーカーが最も注力しているのは安全性です」とRubenは語っています。「データと、そしてそれを可能にする技術によって、AVはさらなる安全性がもたらされるのです」。

コラボレーションと標準化

データ通信、データストレージ、フォームファクター、そし複数ある規制の間には、AVの導入方法に対して利害関係があるグループがいくつか存在します。例えば都市部の交差点での単純な右折でも、電気通信、クラウドアーキテクト、ハードウェアおよびファームウェアのエンジニア、機械学習の専門家が影響力を及ぼします。
これらすべてのシステム間に複雑なコラボレーションがあるからこそ、AVの成功にはコミュニケーションと標準化が不可欠なのです。ウエスタンデジタルは、この点についての規格を制定し、新しいストレージ製品が要件を満すことを保証するエコシステム組織の一翼を担っています。同時に、新しい技術と、その技術が車両搭載のデータストレージとデータ通信にどのような影響を与えるかについて、自動車メーカーと深く議論しています。自動車メーカーは安全性と性能に関するニーズを我々ストレージ業界に伝え、そのおかげで我々はち密に設計したソリューションを開発できるのです。
業界標準の制定が大きな話題になることはほとんどありませんが、上述の試みは、この分野における歴史的なコラボレーションの集大成と言えます。AVは駐車場を出た瞬間から、システム間のデータ転送を常に統合的に制御しています。それを可能にするのがデータですが、驚異的なAVエンジニアリングを実現するのは「コミュニケーション」、そして「コラボレーション」なのです。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(DECEMBER 7, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

戻る