2024年04月26日
AIは芸術の真贋を見極められるのか

本物であるか、贋作(がんさく:ニセモノ)であるか。「真贋(しんがん)」は、芸術の世界の通貨ともいえるほどの重要な要素です。ニセモノのヴァン・ゴッホには価値はありませんが、本物のルノアールにはそれ相応の価値があります。ただし、あらゆる創作活動と同様に、AIは現在においても過去においても、アートの世界に大きな変革をもたらす立場にあります。厳選されたデータセットを活用したAIは、アートの歴史をより深く読み解くツールとして、そして将来のアーティストたちの新しい媒体としての役目を担っています。

認識と検証

美術品販売の世界では、真贋の検証は買い手と売り手の両者にとって不可欠です。売り手には信頼が必要であり、買い手は保証を求めています。現在の多くは、特定の芸術に詳しい専門家(美術史家)や美術学校などの専門教育機関により、芸術作品の非常に細かな部分をチェックして真偽の検証を行っています。彼らは卓越した才能を有するものの、人間ですから間違いを犯すこともあります。バイアスがかかったり、既得権があったり、主観に基づいた検証を行う可能性はゼロではないためです。そこで役立つのが、広範で客観的なデータ分析を行えるAIです。

「当社のテクノロジーは、透明性と客観性を高めることで検証に変革をもたらします。専門家、すなわち人間に依存する従来の方法とは異なり、当システムには個人の好みによるバイアスはありません」と、Art RecognitionのCEO兼共同創設者であるCarina Popovici博士はコメントを寄せました。「透明性、正確性、客観性の融合によって、当社のテクノロジーは美術品鑑定の分野において比類のないツールとして位置付けられています」。

スイスを拠点とするArt Recognitionは、AIモデルを使用して巨匠の作品を検証することを専門としています。同社は現在まで、ノルウェーの国立美術館に展示されているゴッホの「自画像」など、ヨーロッパ全土で500点以上の検証に携わっています。

2019年、Art Recognitionは多くの論争が繰り広げられているゴッホ作品の中から、ある絵画の真贋性を確かめるよう分析を依頼されました。数百点ものゴッホの作品だけでなく、ゴッホ絵画の贋作販売に関与したとされるOtto Wackerの作品のような偽物を使用して畳み込みニューラルネットワークをトレーニングすることによって、同社はその作品が本物である確率を97%と評価しました。これはこのモデルがこれまで生成した中でも最も精度の高い評価となりました。

現在、同社は西欧の顧客がメインとなっていますが、十分な量のデータと複数回のトレーニングにより、このAIモデルはどのような絵画でも分析が可能であると、Popovici博士は確信しています。

「当社のAIは、トレーニングに十分な数の画像があれば、西洋美術と東洋美術のどちらも問題なく鑑定できます」と博士は述べます。「平均して100枚以上の画像をトレーニングのベースラインとし、鑑定結果を出すまでには数時間から1~2日かかります」。

しかし、このテクノロジーには限界があります。中でも注目すべきは、AIは本物の作品との比較を通した検証のみを目的としている点です。たとえば生徒が描いた作品グループがあり、それが誤って講師の作品であるとされた場合、アルゴリズムはそれらをグループ化したり、類似点の共有を特定したりできなくなります。AIが出した結論に、美術史家による追加作業を必要とする所以です。

「アートとAIは、今後さらにダイナミックな融合が予想され、私たちの視野をさらに広げることになると信じています」とPopovici博士は語ります。アートの世界に関する幅広い文脈的知識と、社会史に関する知識、さらには人による直感が加わらなければ、AIは単なる道具にすぎません。厳密な且つ多くのデータとトレーニング機会があってこそAIは力強いツールとなり、学者や歴史家による鑑定の精度を高めることができるのです。

構築と発見

しかし、多くの人にとって、AIは単に学者や販売者のためのツールなだけではありません。AIアートプラットフォームであるPlayformの創設者、Ahmed Elgammal博士たちは、AIアートを現役アーティストにとっての新たな分野だと考えています。

「すべてのアーティストはアイデンティティを必要としています。19世紀当時、写真家たちはそのアイデンティティを主張する方法を模索し、キャンバスに描かれたものだけがアートではないと世界に納得させるのには時間がかかりました」とElgammal氏は述べます。「AIはアートであり、媒体であり、ツールです。これが、新しい芸術的アイデンティティの誕生です」。

Playformは、他の生成AIとは異なり、ユーザーが提供するデータでトレーニングされます。インターネット経由でアーティストの同意なしにアートをスクレイピングするのではなく、Playformではユーザーに自身のデータセットをアップロードするよう求めます。ユーザーはすでに公開されている名作を選択するか、自身の作品をアップロードするかを選ぶことができ、モデルがデータの解釈をどのように反映するかを見ることができます。

「AIは画一的でも誰か特定の人だけのものでもなく、すべてのアーティストがその技術を自由に活用できます。当社のユーザーの大半は、独自のモデルをコントロールできる点に魅力を感じて当社のシステムを使用しています」とElgammal氏は語ります。「アーティストは何を作るにしても、自身のコンセプトを表現したいと考えています。そのため、モデルと連携してビジョンを生成することは、どのキャンバスや筆を使用すべきかを理解するのと同じくらい重要なスキルなのです」。

この分野への参入は以前よりも簡単になりました。以前はこれらのモデルのトレーニング用データでサーバー全体が占められていましたが、今ではアーティストがフラッシュドライブ1つに芸術的AIの骨組みを保存して持ち運べるほどになりました。Elgammal氏はこれを、アートとAIのストーリーを盛り上げるチャンスと捉えています。

「AIアートの多くはアーティストではなく技術者から始まっており、それらのツールを最大限に活用するには多くの知識が必要でした」とElgammal氏は説明します。「だからこそ、Playformが重要なのです。私たちの目的はSNSに投稿するためのグラフィックを作ることではなく、芸術的なアイデンティティ、コントロール、プライバシーに焦点を当てています」。

「アートの検証と同様に、AIが芸術的なビジョンを高めることは明らかです。スタイル、アーティスト、アイデア、素材、テクニックをキュレーションする人がいなければ、モデルは舵がない船のような状態になります。数値を割り当てたり、つなぎ合わせたりすることはできても、それが何でできているのか、何を意味するのかを理解することはできません」。

複製できないもの、置き換えられないもの

アートにおけるAIについては多くの論争がありますが、そこには理由があります。メトロポリタン美術館に掲示されている「AI-73はこちら」という導線看板に行列はできませんし、行列ができることは今後もないでしょう。

「数年前にはAI展に興味を示すギャラリーもありましたが、最近では一部で反発が起きているようです」とElgammal氏は語ります。「アートとイメージの違いを見いだすまでは、私個人としては何も心配することはないと考えています」。

重要なのは、“イメージ”と“アート”の区別です。イメージとは、SNSなどに投稿するためのものであり、アートとはそれが文章的、視覚的、音楽的なものであろうとし、必然的に人間性や人の感性に訴えかけてくるものです。AIはそれを分析・探索し、表現する新しい情報を与えてはくれますが、AIが与えてくれたそのすべてに意味を見いだすかどうかは、私たち人間なのです。

文中イラスト: Rachel Garcera

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(OCTOBER 31, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

戻る