2023年08月25日
UltraSMRが業界最高容量のドライブになるまで

2022年5月、ウエスタンデジタルは業界最大容量となる26TBハードディスクドライブを発表しました。これにより、クラウドを運営しているお客様は、今日の大規模データストレージのニーズに応える、桁外れの大容量を実現することができます。このストレージリーダーによる絶え間ない容量の拡大は、複数の技術のイノベーションを統合することで達成されました。26TBハードディスクドライブの実現に貢献したUltraSMRもその集大成のひとつです。
UltraSMRは、ハードウェア、コントローラ、および読み取りチャンネル技術を独自のファームウェアおよびアルゴリズムと融合することで、従来型磁気記録(CMR)方式に対するシングル磁気記録(SMR)方式の容量上の優位性を大幅に拡張しています。
これらのテクノロジーを組み合わせると、SMRドライブの容量がさらに10%拡張され、従来のCMRドライブよりも20%拡張されます。
しかし、このような画期的な成果は一朝一夕に達成できるものではありません。UltraSMRへの道のりは、一連のイノベーションを取り込みながら、複数のステップを複数年かけて進めた取り組みでした。

スタートはSMR

ウエスタンデジタルのHDD CTOイノベーションおよびIP担当ディレクターであるChad Mitchellは、著名なエンジニアが集結したチームを率いており、チームのメンバー各々が多数の特許を保有しています。メンバーの中には特許を3桁も取得しているエンジニアが何人かいます。ほとんどのエンジニアは、ミネソタ州ロチェスターに拠点を置いていますが、そこでは過去10年間にわたってUltraSMRの開発が続いていました。Mitchellのチームは、各世代のHDDシステムオンチップ(SOC)の各機能を設計しており、その中には0と1のデータの読み書きを符号化、復号化、変換する機能が含まれています。
「UltraSMRへの道のりは、2013年にウエスタンデジタルが世界初の14TB HDDに搭載した最初のSMRからスタートしました」とMitchellは述べています。「今日のUltraSMRに結実する、さまざまなテクノロジーを段階的に追加していきました」。
SMRは、屋根板を葺く瓦のようにデータが記録されたトラックを一部分重ね書きすることで、より多くのトラックとデータを同じスペースに詰め込むことができ、高密度化と驚異的な大容量を実現します。

ウエスタンデジタルのHDD製品管理担当SVPであるRavi Pendekantiは、TechRepublicのインタビューで次のように話しています。「屋根板を屋根全体に平らに敷き詰める場合は、屋根の面積分の屋根板を貼っただけです。ところが屋根板を少し重なり合うようにすると、同じ面積の屋根にもっと多くの屋根板を貼ることができます。これがSMRの本質です」。
しかし、トラックを分離しない状態で、他のトラックを壊さずにデータを読み書きするには、シーケンシャルに行うしかありません。そこでSMRドライブでは、データをすぐにドライブに書き込むのではなく、キャッシュに書き込み、その後、個々のセクターではなくトラック全体を読み取る大きな単位でメディアに書き込みます。
SMRでは、データを書き込む前に結合するため、より大きな領域でコーディングが可能となり、無駄が最小限に抑えられ、機械的な効率が向上します。企業で使用する場合、この方式でデータ処理を実行するためには、事前にソフトウェアを変更する必要があります。しかし、一度投資するだけで、容量効率の面で大きなメリットを持続的に享受できるのです。

UltraSMR: 飛躍的な進歩

ハードドライブの容量が増加するにつれて、誤り訂正の課題も深刻になりました。しかし、同じフォームファクターのブロックに、より多くのビットを詰め込めるようになり、セクターサイズが大きくなると、より複雑な誤り訂正アルゴリズムとプロセスが適用できることが分かったのです。
ウエスタンデジタのHDD事業部門の著名なエンジニアであるRick Galbraithは次のように述べています。「SMRが登場する前のCMRは、ランダムでの性能を低下させずに大規模な領域をコーディングすることがなかったため、大きなブロックでの誤り訂正ができなかった点がSMRとは異なります」。
UltraSMRにより、以前よりもはるかに広い領域でのコーディングが可能になり、これまでは欠点と見なされていたシーケンシャルな性質が、インテリジェントなデータ処理に新たな可能性を生み出しました。
誤りを訂正するために、エンジニアリングチームはデータのブロックに冗長性を持たせて符号を生成します。符号のサイズが大きくなればなるほど、誤り訂正符号はさらに完璧になります。トラック全体をカバーする冗長性により、さらに強力で効率的な誤り訂正アルゴリズムの新しい世界が拓かれます。
さらに、UltraSMRが提供する広大な空間領域は、ハードドライブをより広い領域に分散させて欠陥を希薄にすることによって、ハードドライブの信号対雑音比を均一化するのに役立ちます。
「UltraSMRのメリットは、リードバックにおける信号処理にあります」とMitchellは語っています。「エラーをオンザフライで解決できます。これまではできなかったことです」。

成功要因

UltraSMRは単一のテクノロジーではありません。ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアの進歩の積み重ねによって、画期的な容量に到達することに成功したのです。これらの技術には2次元磁気記録(TDMR)、ソフトトラック誤り訂正符号(sTECC)、分散セクター(DSEC)、OptiNANDTMなどがあり、これらすべてが連携して動作するように構築されています。

2次元磁気記録(TDMR)では、媒体の表面上を移動する各アーム(磁気ヘッドアクチュエーター)に2つ目のリードヘッドを追加しています。これにより、信号対雑音比(SNR)が改善され、目的のトラックのデータと隣接するトラックに書き込まれたデータの干渉を防ぐことができます。
「TDMRは、たとえると片眼か両眼かの違いです」とGalbraithは説明しています。「TDMRは奥行きを認識し、見ているものをより正確に判断し、読み取り信号の電気ノイズ成分を低減することができます」。
人間の感覚器官は対になっているので、自然界において周囲の環境に関する情報をより多く得ることができます。片眼よりも両眼の方が、奥行きをよく認識することができます。耳が1つよりも2つある方が、敵が潜んでいる方向を判断しやすくなります。
信号処理に関しては、TDMRにより、コントローラとファームウェアが読み取った信号を組み合わせることで、トラック外のノイズにフィルターをかけ、トラック間の干渉をより効果的に低減することができます。

よりスマートなアルゴリズム

UltraSMRの進歩の大半は、画期的な誤り訂正のアルゴリズムとプロセスによって実現されました。
「誤り訂正符号がなければ何も開発できません」とGalbraithは指摘します。「符号語を形成するために冗長性を加えます。符号語は、エラーを検出して訂正できる一種のパリティ冗長性を付加したデータブロックの組み合わせです」と彼は説明しています。この符号語をどのように構築し、どのように解読するかが、現在進行中のイノベーションの焦点です。
ソフトトラック誤り訂正符号(sTECC)は、ウエスタンデジタが2020年に20TBのSMR製品をデビューさせることができた立役者のコーディングメカニズムです。トラック内に誤り訂正パリティを追加して、わずかな領域を使用してデータの完全性をチェックします。

sTECCを実装したUltraSMRでは、データが100%正しいかどうかを読み取りチャネルが分析できる相関スキームを追加する手法でパリティを導入しています。Galbraithはこれを「パズル同士をつなぎ合わせる情報を使って、別々のパズルのセットを解くやり方を応用している」と説明しています。
大きなブロックの符号化とこの高度な誤り訂正アルゴリズムを組み合わせることで、エンジニアは最終的に1インチあたりのトラック数(TPI)を増やし、より一層の大容量を実現することができます。

コーディングのさらなるイノベーション

次に登場したのが分散セクター(DSEC)です。これは、データをセクターのグループに分散させ、それらを分割して複数のセクターに書き直すことで、トラック全体のエラーを平均化する革新的技術です。これは、分散型の株式ポートフォリオや投資信託に見られる、卵は一つのカゴに盛るなという相場格言に似た考え方です。容量を増やすと、書き込むトラック同士の間隔がさらに狭くなります。そこでデータを複数のセクターに分散させれば、信号雑音を平均化し、書き込まれたトラック間で起こる位置決めのずれを減らすことができます。
「論理セクターは物理的に多くの物理セクターに分散されます。」とGalbraith氏は説明します。物理的欠陥もまた、論理的に多くの論理セクターに分散されます。この2つの特性により、論理セクターはより訂正しやすくなります」。

基本的にデータがすべてのトラックに分散されていれば、エラーもより小さな部分に分散されます。その結果、データが完全に失われることはなくなり、もっと簡単に読み出せるようになるのです。
「分散型セクターが大変優れているのは、レートレスでオーバーヘッドがない点です。」とGalbraithは述べています。「何に対しても冗長性をまったく加えず、100%効率的であるという事実から大きな利益が得られます」。

HDDとフラッシュをまたがるイノベーション

UltraSMRのパズルに残された最後のピースは、ドライブにフラッシュを組み込んでHDDを強化するOptiNAND技術の導入でした。
この技術はウエスタンデジタル独自のもので、HDDとSSDの両エンジニアリングチーム間の垂直統合によって実現されました。ウエスタンデジタルの著名なエンジニアであるDavid Hallに代表されるOptiNANDの発明者らは、ウエスタンデジタルがSanDiskを買収する前の2015年には、すでにNANDの新しい使用方法について考えを巡らせていました。
OptiNANDは、回転メディアではなく不揮発性フラッシュにメタデータを保存することによって、ハードドライブの容量とパフォーマンスを向上させます。
家を建てる時は、見取り図から始めるとうまくいくように、OptiNANDは不揮発性メモリを利用してディスクに保存されたデータの信頼性を高めています。この組み合わせにより、DRAMやNORフラッシュよりもはるかに多くのキャッシュを格納できるメモリーオプションを使用しながら、書き込みトラックの間隔を狭くすることでパフォーマンスを向上させることができます。

容量で最先端を行くための究極の集大成

時間をかけて、これらのテクノロジーが統合された結果、UltraSMRとして実を結び、CMRとSMRの両方を上回る大幅な容量増加が実現しました。
SMRが板葺き屋根とすると、UltraSMRはより優れた葺き方をした茅葺き屋根です。さらに頑丈で暴風に耐えることができます。
「これはチームワークの成果です」とMitchellは力説します。「イノベーションの元となるアイデアは、実現するまでに変容していきます。その道のりの中で、多様な専門性を持つ世界クラスのエンジニアの一大グループが必要となります。新しい機能コードを書いて、既存のカスタマーコードに統合するためです」。
UltraSMRの登場には、ハードウェア、サーボメカニカル、製造、ファームウェアの各チームによるコラボレーションが貢献しました。ファームウェアエンジニアは、新しい技術革新をコードに統合し、それらがすべて連携して動作することを確認するために参加しました。
「ウエスタンデジタルは、過去10年にわたる技術革新を慎重かつ段階的に組み合わせることで、当社の高い品質基準を維持したHDDを提供し続けることができました。これを実現したエンジニアチームは、業界でもトップクラスであり、その革新的発想と会社全体でのグローバルなコラボレーションにより、1つのシステムですべてが連携して機能できるようにする必要がありました」とMitchellは述べています。
このようなチームワークにより、同社は、容量を飛躍させるために限界に挑戦し続け、50TBへの道を確実に歩んでいます。これは段階的なステップであり、異なる技術を組み合わせてイノベーションを起こす方法を突き止め、HDDの将来に向けた明確なロードマップを提示することに取り組んでいます。

著者: Anne Herreria

※Western Digital BLOG 記事(JANUARY 4, 2023)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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