2022年11月25日
ブラックホール: 宇宙最大の謎を写真に収める

ウエスタンデジタルは2015年から、ブラックホールを観測・撮影する画期的なバーチャル望遠鏡「Event Horizon Telescope(イベントホライゾンテレスコープ)」を支援しています。

私たちがこれまで見てきたブラックホールは、実はほとんどが画像ではありません。それは、数学的理論に加え「ブラックホールが存在する」というかなり最近の証拠に基づいて、私たちが考えるブラックホールの姿を図解したものなのです。
2019年、科学者チームが数十年来の天文学の技術、目覚ましい世界的な協力、そしてデータストレージとコンピューティング技術の進歩を駆使することで、すべてが変わりました。史上初のブラックホール画像の作成に成功したのです。
先日、同じチームが、銀河の中心にあるブラックホールの待望の2枚目の画像を発表しました。これら2つの画像は、ブラックホール黄金時代の一部であり、非常に重要なものです。ムーアの法則、機械学習、そして最終的には量子コンピュータが、宇宙で最も奇妙で謎めいた天体のひとつを明らかにする…かも知れない時代なのです。

ブラックホール:宇宙を動かすエンジン

ブラックホールの謎はとても深いものです。ブラックホールは、無限に広がる重力の井戸のようなもので、非常に多くの質量が小さなちいさな空間に凝縮された時空領域であり、重力は既知のあらゆる力を凌駕します。それは光さえも抜け出せないほど強いものなのです。
星をバラバラにするほどの、あまりにも強力なチカラは、内部で時間が変化する、あるいは突然終わってしまうかもしれないとさえ言われています。ブラックホールという概念を理解するのはとても難しく、地球の質量をコインサイズに押し込んだような、とてつもなく高い密度の物体です。
一般相対性理論でブラックホールの存在を予言したアインシュタインでさえ、この考えはあまりに過激でありえないと、その存在を疑っていました。
しかし、彼の画期的な理論から100年が経過し、天文学者たちは、観測可能な宇宙には40兆個以上ものブラックホールが存在すると推定しました。しかし、その数は膨大でも、見つけることは簡単ではなかったのです。

天体写真の進歩は目覚しいものがありますが、ブラックホールは人間の目には見えません。あらゆるものがその重力場に引き込まれ、私たち地球人がもつ観測機器では検出できないのです。
しかし、科学者は不可能といわれることに臆することはありません。長年にわたり、天体物理学者や数学者は、ブラックホールが周囲の星の軌道をどのように支配しているかを調べることで、ブラックホールの検出方法を発見してきました。この方法はノーベル賞に値するほどの発見で、例えば、銀河の中心にあるブラックホールは、その周囲の星をシャーレの中のバクテリアのように見せているとされます。
ブラックホールを見つける手がかりは、ほかにもあります。高温のガスや星屑が密集しているところに押し込もうとすると、大きな摩擦が生じます。そして、物質が乱雑にこすれ合うと、何十億度にも加熱され、光り輝くのです。
逆説的に言えば、ブラックホールは空で最も明るい天体の 1 つでもあります。 そして科学者たちは、光子がまだブラックホールを周回している境界と、それから何も逃れることができない点、つまり事象の地平線を見ることができるはずだと計算を進めました。
しかし、それは理論でしかありません。 ブラックホールが実際に観測されたことがないのです。 ブラックホールを画像化する際の本当の問題は、その黒さや輝きだけではありません。それはこれらが非常に遠くにあるということです。

地球と同じ大きさの望遠鏡

地球から最も近い超大質量のブラックホールは、いて座 A* (Sgr A*) で、天の川銀河の中心にあります。 地球から26,000 光年の宇宙距離に到達するには、ボイジャー1号のような宇宙探査機で到達するまでに4億年以上かかることになります。
また、メシエ 87 銀河のような巨大なブラックホールもあります。 直径 240 億マイル、太陽の65億倍の質量を持つこのブラックホールは、知られている中で最大のブラックホールの1つです。
しかし、望遠鏡を通してこれらの天体のいずれかを見ることは、月面にあるドーナツを撮影しようとするようなものです。
望遠鏡の倍率は、反射鏡の大きさによって制限されます。 十分に高い解像度を取得し、そのドーナツに砂糖がかけられているか、カスタードが入っているかを確認するには、地球サイズの望遠鏡が必要となります。 そのような望遠鏡は永遠に実現することはありませんが、ある科学者はハッキングしてみようと思い立ちました。
Sheperd Doeleman氏は、ハーバード&スミソニアンの天体物理学センターに勤める天体物理学者です。彼は、VLBI(Very Long Baseline Interferometry)と呼ばれる電波天文学の手法を研究しています。VLBIでは、数千マイル離れた場所にある複数の望遠鏡が同じ天体を同時に観測し、それらの間の距離と同じ大きさの望遠鏡をエミュレートします。

イベントホライズン・テレスコープを構成する世界8か所の天文台

地球サイズの望遠鏡を作るには、多くの望遠鏡をネットワーク化する必要があります。彼は新しいハードウェアを設計および構築し、高度15,000 フィートの死火山の頂上と南極に世界で最も高価な望遠鏡を設置する必要がありました。10億分の1秒単位で同期させるには、原子時計が必要でした。そして、彼は何十人もの科学者、エンジニア、研究機関を結集して、素晴らしく且つ信じがたい結果をもたらすプロジェクトを構築しました。
このプロジェクトには、10 年以上の歳月がかかりましたが、Doeleman とプロジェクトに参加した何百人もの科学者がこれを成功させました。
2017 年の数日に渡り、8 台の望遠鏡が完全に同期して動作し、ブラックホールの周囲で向きを変える電磁波を捉えました。彼らは、データストレージ、プロセスおよび転送速度を活用して、望遠鏡の感度を前例のないまでの高解像度に拡張し、天体観測において記録された史上最大のデータセットを作成しました。
5ペタバイトのデータを蓄えた総量500kgものハードドライブからイメージを結合および合成できるツールとアルゴリズムを構築するのに、さらに数年かかりました。以前のデータも既存のデータもないため、チームは人間の偏見によって画像が破損しないようにする必要がありました。 その光の輪は、彼らの願望ではなく、データから現れる必要がありました。
2019年4月10日、Doeleman氏はステージに立って、ブラックホールの画像を世界に披露しました。「私たちは見えないと思っていたものを見ることができました」と彼は述べました。
翌日、この画像はほぼすべての新聞の1面に掲載されました。人類の歴史におけるセンセーショナルなマイルストーンとなり、では次に何があるのかと、人々に疑問を投げかけるものとなりました。

次世代のブラックホール写真

人間には素晴らしい特徴があります。ブレークスルーがどれほど目覚ましいものであったとしても、ほんの1秒前にどれほど不可能に思えたとしても、それはすぐに次の大きなものへの足がかりとして受け入れられます。Doeleman氏にとって、この画像が始まりにすぎないことは明らかでした。

EHT の共同研究によるブラック ホールの最初の画像

次世代 EHT (ngEHT) は、より高解像度の画像とブラックホールの最初の動画を作成するために既に進行中です。このプロジェクトは、より多くの望遠鏡を活用し、新しい波長を収集し、ムーアの法則の曲線に乗って、これまで以上に詳細なデータを収集することを計画しています。
Western Digital の技術者である Kamaljit Singhによると、このプロジェクトでは当社の最新のフラッシュストレージを評価中であるとのこと。高速なSSDを搭載したスーツケースほどの大きさのサーバーは、キャプチャ性能を毎秒0.5テラビットにまで高めることができます。「これは、数年前に比べてなんと8倍に増加しています」(Singh)。
少し前まで、ブラックホールは論争の対象でした。しかし今、ブラックホールは執着の対象となりました。つい先月には、科学者たちはさまよえるブラックホールを発見し、初期宇宙でブラックホールがどのように形成されたかという謎に答え、最も急速に成長するブラックホール(毎秒地球の質量に相当する量)を発見したと発表しました。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の目覚ましい進歩と小型衛星の新時代に加えて、データ ストレージ、ネットワーク、処理技術の進歩が加速し、科学者、数学者、エンジニアは新しいツールを手に入れたのです。
結局のところ、ミステリーは究極の行動喚起です。ブラックホールの中身はまだわかっていませんが、テクノロジーのおかげで、これまで以上に身近な存在になりつつあります。乞うご期待。

著者:Ronni Shendar Ronni Shendar
※Western Digital BLOG 記事(AUGUST 2, 2022)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

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