2022年11月11日
空想が現実になる場所:スポーツについてデータが教えてくれること

自分の好きな選手を集めて架空のチームを作るゲーム「ファンタジースポーツ」は、1950年代からさまざまな形態で存在していましたが、その後、その慎ましやかな起源から飛躍的な成長を遂げました。かつて、ファンは新聞に掲載されたスコアやレポートをむさぼり読んだものですが、プレーヤーがどのようなパフォーマンスを発揮するかは皆目わかりませんでした。しかし、ファンタジースポーツ産業が成長するにつれて、ゲームの方法も成長していきました。ファンタジースポーツは、かつては昔ながらのアスリートのためのサイトでしたが、データオタクの領域へと変貌を遂げました。
多くのスポーツで、高度な指標やデータ駆動型の分析手法が普及するにつれ、空想の中のスポーツは、データオタクにとって分析スキルを試せる格好の競技場へと進化したのです。高度なデータが利用可能になったことで、ファンタジースポーツは、より競争力のある、知性に訴えるものになりました。さらに、データを使ってスポーツを愛する新しい方法を見つける、知的で情熱的なスポーツコミュニティの成長を後押ししているのです。

データはどのようにしてスポーツと融合したか

統計データは常にスポーツの中心にありました。野球の打率からアメフトのレシーブヤード距離に至るまで、チームや選手を比較しチームの特質を議論する方法は常にありました。しかし、これらの統計データの多くは、ゲームの本質を説明するには的外れなものばかりでした。意図しない間違いや誤解を招きやすい空しい数字でした。
メジャースポーツの中で、初めてデータ革命を起こしたのは野球でした。今では悪評を受けることもある野球評論家のBill James氏は、1977年から年刊誌Bill James Baseball Abstractを発行しました。「セイバーメトリクスの父」と呼ばれるJames氏は、野球の試合において何が重要で価値があるかという従来の考え方に挑戦したのです。彼が提唱したアイデアは、ほとんどがニッチなものでした。しかし、オークランドアスレチックスのゼネラルマネージャーであるBilly Beane氏が、2002年のシーズンに向けてセイバーメトリクスを導入したことで、ようやく広く知られるようになりました。(2003年のMichael Lewis著「マネーボール: 不公平なゲームで勝つ技術」にその記述があります。)
ファンタジースポーツもまた、データとの関係において同様の道筋をたどりました。過去数年間、ファンは基礎的な数学や細かな数字に頼っていましたが、選手がフィールド上のアスリートを評価する方法には大きな変化がありました。それと同時に試合のルール自体も変わっていきました。2013年、ESPNは「過去30年以上にわたる統計革命」を反映するために、ファンタジーベースボールのバージョンを変更することを発表しました。
今日、ファンタジースポーツの選手は、多数のサイトから提供されている最高の公開データを使用しており、世界中のほぼすべての主要なスポーツで利用することができます。これらのサイトでは、一般的な統計データだけでなく、より高度な数値、堅牢なモデルに基づく予測統計データ、走力など、成績に基づいた統計データには反映されない基礎的な数値なども提供されています。

参加者の拡大

ファンたちは、これらのサイトに集まり、知識を持ち寄り、大好きな話題について議論します。そして、誰が栄冠に輝くかを競い合って予想するようになりました。これらのサイトの周りには活気溢れるコミュニティが生まれ、やがて繁栄して、レポートや分析を行う際の公正な情報源になりました。
野球をテーマにしたブログと統計情報を提供しているウェブサイトFangraphsは、こうしたコミュニティの好例です。David Appelman氏がAOLの運用部門に携わっていた時に立ち上げたこのWebサイトは、彼自身が作成したいくつかの単純なグラフの掲載から始まりました。その後、メジャーリーグの上層部で頻繁に話題になり、現在の多くのMLBの幹部に対する教育にも多大な貢献をして、業界をリードするサイトに成長しました。また同サイトでは、Fangraphs Wins Above Replacement(fWAR)のような統計データを作成するまでに至っており、今では野球界全体で広く利用されています。

また、Sports Referenceが運営する一連のサイトのように、国際サッカーからカレッジ・バスケットボールまで、あらゆるスポーツに関するさまざまなデータを提供するサイトもあります。これらのサイトは、StatsBombやStatHeadデータベースのような専門家が使用するプラットフォームを活用して、最先端の分析情報を一般に公開しています。
たとえば、StatsBombやFootball referenceでは、世界中のサッカーファンに向けて、毎年選手が決めるゴール数を予測するxGなどの予測統計情報を公開しています。イングランドプレミアリーグに昇格したばかりのブレントフォードや、スペインのレアル・ベティスといったクラブの戦略は、こうした最新の指標が鍵を握っています。これらのサイトは、そのような種類のデータを民主化し、ファンがファンタジーチームに対してより賢明な判断を下せるようにするだけでなく、想像上のグラウンドを超えて情熱を発揮できるようにしているのです。

ファンからプロフェッショナルへ

ファンの中には、インターネット上の情熱が高じて、世界中のスポーツを理解し、データを使いこなす能力だけを頼りにして、新たなキャリアに向かう人々もいます。今年になって、FangraphsのCraig Edwards記者には、メジャーリーグ選手協会から仕事のオファーがありました。彼は、弁護士として働きながら、29歳で初めて野球に関するブログ記事を投稿しました。フルタイムで野球の取材を始めたのは34歳になってからでした。
Edwards氏はFangraphsに別れの投稿をしました。その中で自身の開花したキャリアがいかに現実離れして感じられたかについて、「何でも可能だなんて言いません。事実、私にとって20歳の時には、こんな仕事に就くことは不可能に思えました」と書いています。
ニューヨーク市の銀行員だったBrandon Taubman氏も同じような道をたどりました。「大のファンタジーベースボールオタク」を自称するTaubman氏は、仕事で培ったスキルを駆使して、日々のファンタジースポーツの予想モデルを構築しました。そして、どのようなギャンブルにおいても非常に高い、58%の勝率を達成しました。これらのスキルのおかげで、彼は最終的にメジャーリーグのヒューストン・アストロズで経済アナリストとしての職を得て、このチームの有望スターの将来価値を予測し評価するようになりました。
2013年、Taubman氏が当時のJeff Luhnowゼネラルマネージャーの右腕としてチームに加わったとき、アストロズはクラブ記録の111敗を喫することになるシーズンをスタートしていました。その後の4年間で、アストロズはポストシーズンの常連となる力を証明し、ヒューストンに初のワールドシリーズ優勝トロフィーを持ち帰ることになります。
The Athleticとのインタビューで、Taubman氏はファンタジーベースボールでキャリアが始まった頃を振り返って、次のように述べています。「あの頃は楽しかったですね。でも今の方がもっと楽しいですよ」。

上記の二人は、ただのファンが業界の頂点にまで上り詰めた一例でしかありません。今でもFangraphsは、将来の優秀な記者を発掘して掲載しています。ファンタジースポーツの世界には、開発者が使いこなせる無数のAPIがあり、マイクロブログや業界の将来の巨人たちに力を与えています。中には、ファンタジーフットボールのデータを使ってプログラミングを教えている会社さえあります。毎日、誰かが自分の情熱を大切な夢のキャリアに向けて注ぎ込むチャンスがあるのです。

データでつながる

かつて、ファンタジースポーツは、スポーツのカルト的な存在であり、定説や伝統的な社会のレッテルに依存していて、オタク的なファンがスポーツを熱心に調べるのを阻んでいました。しかし、データによってスポーツの可能性はもっと広がります。実際、データによってファンやオタクは、まったく新しい方法でゲームに参加することができるのです。
ファンの語源がfanatic、つまり何かを熱狂的に支持する人を意味することは偶然ではありません。データは、人々がスポーツを愛し、理解するための新しい方法を発見し、時には部外者でさえも全く新しいゲームのファンになる手段にもなり得ます。ファンタジースポーツの核にあるのは、仲間のファンとの絆であり、すべての瞬間の喜びと悲しみを分かち合うことです。折しもデータのおかげで、こうした絆がかつてないほど深く広がっているのです。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(SEPTEMBER 30, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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