2022年10月21日
データはサイクリングをどう変えたのか

サイクリングというスポーツは、自転車の「純粋主義者」と「新技術の支持者」との間でさまざまな意見に分かれています。ディレイラー(変速機)の装備、レース用無線機、そして最近ではディスクブレーキが登場したことで、レースの公平性、戦術的な優位性、さらにはサイクリングの本質について白熱した議論が巻き起こっています。
それはデジタルデータについても例外ではありません。プロの自転車競技の選手がパワーメーターを気にするあまり、レース感覚が失われたと言う人もいます科学者たちがこの主張の信ぴょう性を探る一方で、ひとつだけ明確なのは、データがサイクリングの世界を変えつつあるということです。

プロのように走る

プロの自転車選手は、途方もない量のデータを収集しています。出力、ケイデンス、スピード、心拍数、栄養摂取量、さらには睡眠データまで集められ、選手のパフォーマンスを継続的に向上させるために活用されています。
「トレーニングの1秒ごとにデータを集めています」と、世界トップクラスのレーシングチームであるTeam Jumbo-Vismaのパフォーマンス責任者、Mathieu Heijboer氏は述べています。
ビデオインタビューの中で、Heijboer氏は、Team Jumbo-VismaがGarminサイクリング・コンピュータを使ってトレーニングデータを収集し、世界最大レースでのペース配分戦略を策定している方法を説明しています。
サイクリング・コンピュータとは、自転車のハンドルバーに取り付けて、速度、走行距離、走行時間などのリアルタイム情報を表示し保存する小さなデバイスです。高度なGPSナビゲーションツールが組み込まれたハイエンドモデルもあります。このツールは、サイクリストがトレーニング経路を設定し、上り坂や下り坂のカーブを正確に把握し、最も効率的にパワーを使う方法を計画するのに役立ちます。

計算は誰にでもできる

Garminは、サイクリングコンピュータ市場にGPSを初めて導入した企業です。「GarminのEdgeサイクリング・コンピュータを購入したサイクリストの皆様には、モチベーションを維持したり、改善するために必要なパフォーマンスに関するインサイトを提供したいと考えています。また、地元の人のように走るのに役立つ自転車専用のナビゲーションも提供したいと思います」と、GarminのリードプロダクトマネージャーのAndy Silver氏は述べています。

ウエスタンデジタルのグローバルオートモーティブセグメントのマーケティングディレクターで、熱心なサイクリストでもあるRussell Ruben
アマチュアにとって、サイクリングの長距離走で上達の度合いを追跡するのが困難でした。ウエスタンデジタルのグローバルオートモーティブセグメントのマーケティングディレクターであるRussell Rubenは次のように述べています。「私がサイクリングを始めたころは、自分がどのくらいのスピードで、どのくらいの距離を走っているのかを知る術はありませんでした」。
Rubenは熱心なサイクリストであり、組み込みフラッシュストレージのエキスパートでもあります。この2つの世界は一見無関係に思えますが、実は密接に絡み合っています。
「(自転車に乗っている時の)自分の動作を追跡できるのはとても嬉しいことです。それがモチベーション高めることに役立つからです」とRubenは話しています。「また、これほど小さなNAND型フラッシュメモリーがなければ、こうしたことは実現できなかったでしょう」。
サイクリングデータ技術は、リアルタイムのトレーニングを超えてさらに進化しています。サイクリストは、数十種類ものクラウドベースのアプリケーションを利用して、走行データを記録し、インサイトを得て、世界中の何百万人ものサイクリストとつながることができます。「何千マイルも離れた自転車仲間をフォローして、お互いに励まし合い、コミュニティ意識を持つことができます」とRubenは語っています。

世界一周サイクリングの旅

ベルリン在住の歯科医であるAnn Lau医師は、すでに12万5千マイル(約20万km)を走破しました。「自分の両脚の力で地球を5周したことになります」と彼女は話しています。

「ハンブルグを午前3時に出発して、夕食に間に合うようにベルリンに到着します」

Lau医師は長距離ライダーです。週末はサイクリングをし、休暇には自転車にテントと寝袋を積んで国中やアルプスを横断しています。「私にとってサイクリングとは、自然、野原、そして地平線を体験することなのです」と彼女は語ります。「あきらめるのではなく、乗り越えるために、自分の中にある強さを見つけていくのです」。
夕日に向かって走るのはとてもロマンチックですが、それには綿密な計画が必要になります。以前、彼女は、ハンドルバーにテープで貼り付けた世界地図のコピーに頼っていました。しかし、ある旅でひどく道に迷って帰ったことがきっかけで、彼女は純粋主義者からGPSに頼る立場へと転向したのです。
現在、Lau医師はルートの難易度、良し悪し、路面の種類に関するインサイトを得るために、オンラインツールを利用しています。手作りのパン屋を巡る800マイルのクロスカントリーツアーなどを計画することだってできるのです。「サイクリングの醍醐味のひとつはケーキで休憩の時間ですね」と彼女は話してくれました。

アマチュアサイクリストのAnn Lau医師は、これまでに12万5,000マイル以上を走破しています。

アスファルトの上を慎重に走り続ける

Lau医師もRuben氏も、交通渋滞を避けるために早めに出発します。「安全に走ることが何よりも大切です」とRuben氏は言います。彼の仕事は今、次世代スマートカーを牽引するストレージ技術に注力しており、変革が起きることを期待しています。「センサーとリアルタイムデータは、交通安全を向上させるための鍵となるでしょう」と彼は語っています。
Garminのような企業も解決策を模索しています。GarminのSilver氏は次のように述べています。「サイクリスト自身と周囲の安全面に焦点を当てた一連の機能とアクセサリーを提供しています。これにより、どんなタイプのサイクリストであっても自信を持てるようにしたいと考えています」。
Lau医師にとって、Garminの自転車用レーダーのような、サイクリストが接近してくる車を検知するのに役立つ新しいツールは特別な意味を持っています。3年前、彼女のアマチュア女子自転車チームのメンバーのひとりが車と正面衝突し、昏睡状態に陥ったのです。このチームメイトは耳が不自由で、ヨーロッパでもトップクラスの聴覚障害者サイクリストでした。「このような新技術があれば、彼女のような聴覚障害者のライダーが安全に運転できたのではないかと思わずにはいられません」とLau医師は明かしてくれました。
各都市が自転車の利用を奨励している中、安全性の問題が浮上しています。サイクリストによって収集され、クラウドに保存された膨大なデータセットは、サイクリストがどのように道路を走り、どうすれば彼らの安全性を確保できるかについてのインサイトを提供できます。しかし、切望されている変化を起こすには、サイクリスト、都市計画者、ドライバーなど、あらゆる人の努力が求められるのです。

ピュアな体験

データはサイクリングの世界を変えました。サイクリングの目的がトレーニング、散策、通勤のいずれであっても、データが与える影響は紛れもなくポジティブなものです。NANDフラッシュ、センサー、タッチスクリーンデバイスといった最先端技術が満載されていますが、最終的には、自転車に乗るというシンプルでピュアな体験を、より多くの人々が楽しめるように支えてくれているのです。

著者:Ronni Shendar Ronni Shendar
※Western Digital BLOG 記事(JULY 26, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

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