2022年08月10日
マップを描き直す試み: 位置データがイノベーションをドライブする

スマートフォンは無限の可能性を秘めたテクノロジーの宝庫です。加速度計やジャイロスコープによって、さまざまなユーティリティやQOL機能が生み出されましたが、中でもスマートフォン内蔵のGPSは最も重要なテクノロジーです。最新のスマートフォンやモバイルデバイスは位置データをほぼリアルタイムで提供するようになりましたが、位置データは産業界では非常に価値が高く、位置データだけで120億ドルの市場規模があるといわれています。
この市場評価の額は位置データの日常使用から査定されたものですが、位置データにはこれよりもはるかに大きな潜在力があります。配車サービス、ベストセラーのアプリやゲーム、最新のビジネスには、位置データが基盤として使用されています。多くの業界で、こうした機能から知見がもたらされました。インターネット接続と同様に、位置データもイノベーションをドライブする力として際立っています。

精度高く、正確に、ピンポイントで位置を特定

位置ベースのサービスでは精度と正確さが要となります。位置を正確に示すことができなければ、サービスは成立しません。配車サービスの場合、乗客の送迎先が1区画でもずれてしまうと、旅行者や配車サービスで働くドライバーの貴重な時間が失われ、その結果は大きな差となってあらわれます。子供を見守るデバイスが町の向こう側を指したり、いくつか通りを隔てた場所を示したりすれば、家族はパニックになってしまいます。
Uber Engineeringは、地理空間の正確度が重要と認識し、さまざまなデータ収集方法を開発し、公開してきました。スマートフォンのGPS、加速度計、ジャイロスコープ、ドライバービーコン、気圧計によって収集された全データを数式に読み込み、乗客とドライバーがどこにいてどこで会えるかを非常に正確に予測します。位置を極めて高い精度で特定できるため、「ここはどこ」のような大まかな検索から得られるデータを、強力なナビゲーションツールに変えることができます。

マップをビジネスに生かす

位置データによるイノベーションは、特にビジネスで際立っています。たとえば、米国の薬局チェーン「Walgreens」は、集積した位置データからターゲットとなる顧客のいる場所と自社店舗所在地とのギャップや、ドラッグストアに急いで行きたい顧客がいると予想されるエリアなどを十分に把握しています。同社はこれらの知見を生かし、適切な場所に出店し、地域社会に貢献し、リソースを最大限に活用しています。こうした知見を活用しているのは大企業だけではありません。500万ものアプリがGoogleマップへ接続されたり、Googleマップのデータを使用しています。

ただし、利益だけが位置データによるさまざまなビジネスの動機となったわけではありません。企業は、サプライチェーンの理解を深め、サステナビリティの取り組みを改善するために「ロケーションインテリジェンス」を使用しています。『Forbes』誌は、ロケーションインテリジェンスをビジネスでの意思決定に生かす方法を報告しています。また、企業は、リスク軽減、気候変動への対応、CSR(企業の社会的責任)強化のため、位置情報を重視する新しいタイプのアナリストの採用を進めています。たとえば、樹木の伐採では、伐採量の管理、気候への影響の監視、森林の管理のために位置データを活用し、経済、環境、社会的義務におけるサステナビリティを確保しています。
位置データはビジネスにとってすでに価値のあるツールですが、その潜在能力も次第に明らかになっています。エンターテインメントから医療、公共インフラに至るまで、位置データには持続的なインパクトがあります。
絶賛されたモバイルゲーム「ポケモンGO」の開発元、Nianticは、位置ベースゲームのプラットフォームを使用して、新しいメタバースベンチャーのために3Dビジュアルデータを収集しています。また、パンデミックの初期の頃、研究者たちはCOVID-19の感染追跡をサポートするために位置データを使用していました。さらに、ブラウン大学が公開したリサーチでは、高解像度の位置データによって都市の人種差別状況を把握し、こうした社会的不公平の克服を目的とした公共交通システムの設計のあり方を提言しています。

自動運転と都市の再設計

地理空間データの進化がもたらす別の大きな恩恵は自動運転車市場です。自動運転車の市場の伸びは2028年までに世界で110億ドル以上と予測されています。成長を加速する1つの要因は、テスラやグーグル、GM(ゼネラルモータース)などによる位置データイノベーションです。位置データに注目が集まるのは、自動運転車業界の成長が主な理由であるものの、もう1つ理由があります。輸送は日常生活の中心であり、自動運転車によって都市と公共空間の再設計の必要性に迫られるからです。
モビリティプラットフォームPopulusのCEOを務めるRegina Clewlow博士は、『Forbes』誌の記事の中で、位置データなどのモビリティデータを使用して都市を改造する方法を解説しています。博士が強調するのは、バイクやスクーターにも対応したインフラを造ることによる駐車場の再生です。低炭素の輸送手段を促進し、より公平な輸送手段を作ることが目的です。
Clewlow博士は次のように記しています。「我々は、官民の交通機関が新たな形で提携し、共通の目標に向けて歩みを加速する重要な岐路に立っている。克服すべき重要なハードルはあるものの、都市と民間輸送機関が道を見出すことができれば、この重要な局面をとらえて未来のアーバンモビリティを再構築することができるだろう」。

ウエスタンデジタルでオートモーティブマーケティングディレクターを務めるRussel Rubenは、インタビューでこの考えに賛同し、輸送の自動化によって、交通量と生産性が増える可能性を強調しました。
Rubenは述べています。「今は皆、帰宅するためにGoogleマップを使用しています。しかし自動運転車のシステムには交通管制センターがあります。センターがこれまでよりはるかに効率的に交通を制御できるため、交通状態は大幅に改善されるでしょう」。こうした改善が、移動からサブスクリプションベースの輸送モデルに至るまで、日常生活のあらゆる変化につながり、ガレージのない自宅や、公共交通、運送、その他の輸送手段の調和を実現することができます。
「こうした可能性は私たちの想像よりもはるかに大きく、今後も広がり続けるでしょう」と彼は述べています。

単に地図上の点ではない

位置データは業界、セクターを問わず破壊的な価値を持っていることは否めません。位置データを「近くのカフェ」機能を強化するものにすぎないと片付けるのは簡単ですが、実際にはそれ以上の価値があります。地理空間データは、ビジネスを構築し、新たな発見を伴う研究の基礎となり、独自性と刺激に富んだインタラクティブな体験を作り出します。居住地域の構想や地域内の移動を変えることもできます。位置データは単に地図上の点ではなく、戦略であり、ツールであり、ストーリーなのです。他の優れた情報源と同様に、じっくり調べれば調べるほど、多くのことを教えてくれます。

著者: Thomas Ebrahimi
※Western Digital BLOG 記事(DECEMBER 27, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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