2022年06月24日
通話だけじゃない: スマートフォンとともに進化するモバイルストレージ

初期の携帯電話は重さが数キログラムもあり、不格好なアンテナが飛び出し、サイズは小型のブリーフケースほどもありました。今日のモバイルデバイスは、休暇旅行中に写真を素早くアップロードしたり、指紋や顔で所有者を認証したり、映画をストリーミングしながら買い物ができます。こうした機能やテクノロジーは日常生活に浸透し、私たちはそれを当たり前のことと思っています。
最新のモバイルデバイスの性能を示すベンチマークは、ネットワーク速度、ピクセル画素数、カメラ品質が一般的です。しかし称賛されることは少ないものの、こうしたデバイスのフォームファクターと速度の両方に貢献しているイノベーションが、ストレージです。携帯電話の進化とともに、内部のストレージも進化しています。

IT調査会社IDCの推定によれば、5Gスマートフォンの2021年出荷台数は世界全体の40%を上回り、2025年には69%まで増加する見込みです。
「スマートフォンは生活の中心になりつつあります。5Gの速度や生成されるデータの量だけでなく、通話以外の生活のすべてのことにスマートフォンを使用するようになってきました」とウエスタンデジタルでモバイルセグメントマーケティングの責任者を務めるItzik Gilboaは述べています。
携帯電話の進化とともに、携帯電話メーカーが最新のイノベーションを提供するうえでストレージは欠かせない存在になったとGilboaは語っています。
調査・分析会社、AvidThinkの創設者であり社長を務めるRoy Chua氏は次のように述べています。「携帯電話はコミュニケーション・デバイスとして誕生し、エンターテインメント、デジタルマップ、パーソナルアシスタントなど、すべてを行うデバイスへと進化しました。自分の周囲にあるすべてのデータを収集するスマートフォンは、より速く増加するデータを格納しなければなりません」。

通話だけではない

ウエスタンデジタルでアプリケーションエンジニアリング担当ディレクターを務めるNoam Even-Chenと、製品管理担当ディレクターを務めるOmer Katzは、携帯電話の黎明期を覚えています。2002年、2人はMSystemsに在籍していました(2006年にSanDiskがMSystemsを買収し、2016年にウエスタンデジタルがSanDiskを買収)。MSystemsは、外部のリムーバブルカードを補う内蔵ストレージオプションとして、初の内蔵ストレージソリューション、モバイルディスクオンチップ(mDOC)を開発しました。
Katzは述べています。「(当時)求められていたものは、より多くの容量、起動用のソリューション、セキュリティや耐久性などの特殊な機能でした。市場から学びながら、お客様と市場のニーズに合った製品を開発しました」。

独自仕様から標準仕様へ

mDOCはSATAインターフェースから派生した独自の仕様を使用していました。当時、該当する業界標準が存在しなかったためです。業界標準があれば、複数の企業が設計仕様を標準に一致させ、広範囲の顧客にイノベーションを提供できます。2007年、マイクロエレクトロニクスのオープンスタンダード組織、JEDECが、初の内蔵ストレージ規格、e.MMC(embedded MultiMediaCard)を発表しました。
「これは重要でした。mDOCとその他の独自システムは、後にe.MMCとUFS(ユニバーサルフラッシュストレージ)の規格に使用された多くの仕様と機能の基盤となったためです」とウエスタンデジタルでIoTおよびエッジ担当ディレクターを務めるYaniv Iaroviciは述べています。当社は、何年もの間、新しいストレージ規格で積極的な役割を果たしてきました。現在、JEDECでUFSのテクノロジー担当議長を務めるRotem Selaは、ウエスタンデジタルでフラッシュ製品を担当するシステム設計エンジニアリンググループのエンジニアリングフェローです。
高速大容量を促進したe.MMCの始まりが、初期のスマートフォンに重なったのは偶然の一致ではありません。当時のスマートフォンは、オペレーティングシステムが拡大し、タッチスクリーンなどの新しい機能や、それまで存在しなかったアプリが登場してきた、とIaroviciは語っています。
「2007年は業界の重要な転換点でした。スマートフォンが生まれ、それとともにe.MMCが登場し、そこからスマートフォンの概念が普及したためです」。

ビットへのこだわり

その頃、ウエスタンデジタルは、シングルレベルセル(SLC)からマルチレベルセル(MLC)、トリプルレベルセル(TLC)とフラッシュメモリセルの多値化を推進していました。世代が進むたびに、フラッシュメモリセルに搭載可能なビット数が増えていきます。
「業界がSLCを使用していたとき、私たちは当時無理だと思われていた『1セルあたり2ビット』を推進していました」とEven-Chenは述べています。
「私たちはまず業界のMLC化を進め、次にTLC化を進めました。TLCの製品化に最初に成功し、量産体制を構築したのです」とKatzは述べています。「TLCは、お客様にとって、コスト削減、供給の改善、容量の増加という大きなメリットがありました。コスト削減、長寿命、供給増の価値をお客様に提供することによって、半導体工場からさらに多くのビットを生み出し、容量を増やすことができたのです」。

革命ではなく、進化である

e.MMC規格は速度と容量を引き上げましたが、スマートフォン、アプリ、オペレーティングシステムの進化も続いたため、より高速かつ応答性の高いストレージが必要になりました。4Gはライドシェアなどの新しいアプリをもたらし、またもや携帯電話のゲームチェンジャーとなりました。
Iaroviciは述べています。「アプリの数だけでなく、スマートフォンで同時に実行できるアプリの数が重要でした。スマートフォンでマルチタスクを行ったり、複数のスナップショットを撮ったりするようになったことで、UFSクラスのストレージが求められるようになりました」。
ウエスタンデジタルでテクニカルマーケティング担当ディレクターを務めるEinav Zilbersteinは説明しています。「スマートフォンアプリの進化によって、シーケンシャル書き込み速度のニーズが高まりました。また、ゲームなどのアプリで実行されるマルチタスクによって、ランダム読み取り速度やアプリの起動速度の重要性が高まりました」。
このほど、ウエスタンデジタルは携帯電話向け第2世代UFS 3.1ストレージソリューション「iNAND® MC EU551」を発表しました。混在するワークロード、8Kなどのリッチメディアのダウンロード速度、アプリケーションの高速起動、アップロード速度など、最新バージョンのスマートフォンの要件に対応します。
当社は各段階でエコシステムパートナーと緊密に連携して業界標準に準拠し、モバイル業界の変化に対応しています。内蔵ストレージは早い段階で設計ボードに組み込まれるため、各企業はそれぞれの製品が共通のお客様に届くかなり前に、製品どうしの相互運用性をともに確認しています。
キャリアを通じてお客様と緊密に連携し、カスタマーエクスペリエンスに取り組んできたEven-Chenは次のように述べています。「NAND型フラッシュメモリ、チップセット、オペレーティングシステムはいずれも変化を繰り返し、携帯電話は進化を続けてきました。私たちは、すべてのチップセットメーカー、オペレーティングシステムベンダー、エコシステムと協力し、彼らのサポートを得て、生産ラインで相互運用性を確認する必要がありました」。

次のステップ

バルセロナで開催されたモバイルワールドコングレス2021では、モバイルの未来がホットな話題でした。ウエスタンデジタルでオートモーティブ、モバイル、新興市場を担当するシニアバイスプレジデント、Huibert Verhoevenは、プレゼンテーションで業界に関する見解を述べています。
「私たちはまだ表層的なことしかしていません。5Gによって、思いもしなかった新しいアプリが登場することでしょう。ARやVRなどのユースケースでは、スマートフォンはマルチセンサーコンテンツのプラットフォームになりつつあります。このプラットフォームでは、スマートフォン内外でいかにデータを取得するかだけでなく、データをいかに格納し、表示し、処理するかという、相互作用とレイテンシーが非常に重要になります」。
将来のスマートフォンがハンドジェスチャーや目の動きを組み込むか、ウェアラブルなフォームファクターになるか、IDカードやウォレットアプリなどの日常的なアイテムに代わる存在になるかに関係なく、1つだけ確かなことがあります。それは、ストレージが重要な役割を果たすということです。

著者: Anne Herreria

※Western Digital BLOG 記事(JULY 19, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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