2022年04月22日
第4次産業革命における人間の役割

タイのアーントーン県でTaweesak Phuengprasitの家族が経営する農場では、数個の小型センサーと小型シングルボードコンピューターのラズベリーパイ(Raspberry Pi)で散水システムを制御しています。Phuengprasitは過去10年、ウエスタンデジタルのハードディスクドライブ(以下、HDD)製造工場で技術者として勤務し、スマートファーミング(スマート農業)のスキルを身に付けました。
「私はスマートファクトリーのトレーニングでこのテクノロジーについて知りました。コントローラーやラズベリーパイ、センサーの使い方、そしてスマートファームを構築するためのコードを学びました。母はこのシステムをとても気に入っています。バナナやマンゴーへの散水状況がわかるため、他のことをする自由な時間を手に入れました」と、彼は話しています 。
彼のように、スキルアップと再教育のプログラムを受けているウエスタンデジタルの工場従業員は、数千人に及びます。当社のHDDおよびフラッシュメモリーの工場は世界有数のスマートファクトリーであり、その操業スキルは劇的に変化しています。

スマートファクトリー

ウエスタンデジタルでグローバルオペレーションのスタッフ・戦略担当主任を務めるJackie Jungは、第4次産業革命テクノロジーの適用を推進しています。新たに出現した第4次産業革命(4IR)は、サイバーフィジカル・システムによって生まれた好機というのが特徴です。1つのテクノロジーに縛られることなく、人工知能(AI)、VR、IoTなどのテクノロジーを結合し、私たちの生き方、働き方、交流のあり方を向上させます。
Jungは述べています。「全世界でHDDがゼタバイトレベルに、フラッシュがエクサバイトレベルに増大する今、私たちは生産性の向上、クラス最高の品質の提供、競争力と価値創造の強化をすべて同時に成し遂げなければなりません。こうした困難な課題を同時に解決するには、インテリジェントシステムが不可欠です」。
Jungによれば、ウエスタンデジタルは、リアルタイム解析、M2M通信、コンピュータービジョン、ロボティクス、AIによる予測動作など、多くの最先端のユースケースを工場に実装してきました。生産ラインがコグニティブ・オートメーションに取って代わられても、ウエスタンデジタルの製造部門の従業員への影響は皆無でした。彼女は述べています。「従来の考え方とは異なり、スマートファクトリーでは、人間は時代遅れの存在ではありません。事実、アルゴリズムが特定の作業に取って代わり、より深い洞察を与えることで、人間はより多くのイニシアティブと創造性を発揮できるのです」。

Taweesak PhuengprasitとPhanomkorn Sangrungは、4IRトレーニングでスマートシステムとロボットアームを作成しています

新しいスキル

工場従業員の再教育とスキルアップのために、ウエスタンデジタルは、行政機関、地域の大学、技術系専門校との間で、幅広い連携強化に着手しています。工場は産業IoT(IIoT)ラボと専用のラーニングセンターを設立しました。
しかしトレーニングでの学習は、正式なものや学術的なものばかりではありません。ワンボードマイコンのArduinoやラズベリーパイツールを使用したDIYロボットワークショップのように、ゲーミフィケーションを取り入れ、組み込み型の統合システムを実践的に学べる機会も提供しています。
Phanomkorn Sangrungは、ウエスタンデジタルのHDD工場でツール設計の技術者として勤務して11年以上になります。2018年に4IRトレーニングに参加するまで、VRやARに触れたことはありませんでした。
今、Sangrungは、新入社員を教育するために、複雑な製造装置のシミュレーションを作成し終えたところです。Sangrungは述べています。「以前は、工場のフロアで教えなければならず、装置の動きを内部から示す機会はほぼありませんでした。今では、3DシミュレーションとVRヘッドセットを使用して、内部構造をどの角度からでも確認できるようになりました。製造工程を止めることなく、複雑な内容を非常に簡単に伝えることができるのです」。

世界を学び直す

World Economic Forumによれば、今日の学生の2/3は、今はまだ存在していない仕事に将来就くと予想されています。将来必要になるスキルは、テクノロジーにとどまりません。Phuengprasit、Sangrungともに、習得した最も重要なスキルは、体系的問題解決、デザイン思考、コミュニケーションであると述べています。
ウエスタンデジタルのグローバルHDDオペレーション部門でバイスプレジデントを務めるPhilip Bernardは次のように述べています。「かつて工場は、方程式、技術者、エンジニアから成るハードスキルの世界でした。しかし成功するには、ドリーマーが必要です。私たちが必要とするのは考える人であり、自らの想像力とアイデアで『なぜこれができないのか?』と問いかける人です。そして、そのアイデアを形にする実践者が必要なのです」。

4IRは旅である

ウエスタンデジタルの4IRの採用は一夜にして起こったものではありません。ウエスタンデジタルのAIおよびIoTオペレーション部門でグローバルディレクターを務め、当社の4IRテクノロジー改革の技術的ブレーンであるGeorge Ngは次のように述べています。「アルゴリズムが工具や既存の工程に取って代わることに対して、最初は皆、非常に心配していました。しかし機械学習を導入して組立技術者のスキルアップを図ることで、製造工程と解析との間のギャップを埋めることができました」。
この努力は実を結びました。当初は小さな範囲での成功でしたが、その規模は急速に拡大しました。Ngは述べています。「現在、私たちはすべての段階でインテリジェンスを導入しています。デジタル対応の組立工程と予知保全を利用することで、HDDの品質の逸脱を80%削減しました。また、IoTテクノロジーはフラッシュ生産のOEE(※1)を21%改善し、『完全自動』のオートメーションは生産性の360%アップという劇的な成果をもたらしました。より多くのカスタマイズを以前より短期間でお客様に提供できるようになりました」。
ウエスタンデジタルの高度製造エンジニアリング部門で上級エンジニアを務めるPanuwat Rodchomは次のように述べています。「すべてを改善するということです。これには、工場の従業員の生活の質だけでなく、コミュニティの方々の生活の質も含まれます」。ウエスタンデジタルのSTEMプログラム(※2)と青少年向けプログラムは、タイの複数のHRイノベーション賞と、米国商工会議所の2020 Corporate Social Responsibility賞に輝きました。
「第4次産業革命は、始まる前から自らをそう名乗る最初の革命である」と言う人もいます。なぜならこれは、テクノロジーの革命であると同時に、ビジョンとチャンスの革命でもあるためです。Bernard曰く、「4IRを実現するのも壊すのも人間次第なのです」。

 

※1 OEE (Overall Equipment Effectiveness)…設備総合効率。生産設備の稼働効率に関する階層化された指標
※2 STEM (Science, Technology, Engineering and Mathematicsの頭文字)…科学、技術、工学、数学といった「理系教育」を指す。「STEM教育」と称され、日本でも初等教育の段階から重要視すべき学問として注目されている

著者:Sophie Dillon Ronni Shendar
※Western Digital BLOG 記事(MAY 5, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

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