2022年04月08日
ウエスタンデジタルは新しいHDDアーキテクチャ、OptiNAND™をいかに創り出したか

ウエスタンデジタルで勤続23年のベテラン、David Hallは、自らの役割を「扇動者」と位置付けています。実際の肩書はHDD研究開発部門のエンジニアフェローですが、彼の最高の実績は常識に立ち向かい、イノベーションを達成したことで生まれました。

インタビューでHallは述べています。「物事をスタートして新しい畑を耕し、他の何かを生み出すことが私の仕事です。これまでのやり方に挑戦する扇動者でいたいのです」。

こうして実現したプロジェクトの1つが、ウエスタンデジタルが発表した新しいフラッシュ拡張ドライブアーキテクチャ、OptiNAND™です。OptiNANDは、ユニバーサルフラッシュストレージ(UFS)を使用する組み込みフラッシュドライブ(EFD)「iNAND®」を採用した新しいアーキテクチャです。HDDとフラッシュの双方をストレージとして活用する一般的なハイブリッド技術とは異なるこのストレージドライブは、スマートさ、速度、密度面でハイブリッドより優れており、容量は10年以内に50TBに達する見込みです。

Hallをはじめとするウエスタンデジタルのテクノロジーリーダーいわく、これは、HDDとフラッシュの両テクノロジーを開発、生産する垂直統合型企業だからこそ可能な成果なのです。

NAND実装までの道のり

2015年、Hallが携わったあるプロジェクトでは、NANDフラッシュをハイブリッドドライブとは別の方法で活用して、ハードドライブからより大きなパフォーマンスとストレージスペースが得られないかと模索していました。それよりも前にHallが関わっていたプロジェクトで、フラッシュとHDDドライブを組み合わせたハイブリッドストレージのアプローチを試したものの、当時の市場のニーズに合わないことが判明したためです。このアプローチの際、彼は、容量とパフォーマンスを向上させるために、NANDで何かほかのことはできないかと思うようになりました。

Hallは述べています。「いまよりもさらに良くしたい、と挑戦を試みると、何がベストだとわかることが多いのですが、このときは何か違いました。形のある結果に結び付かなくても、可能性のあることを試してみる理由は大いにあるものです」。

2016年5月に成立したSanDiskの買収は、垂直統合に不可欠なチャンスをもたらしました。このときまでにHallは、NANDのユースケース、価格設定の傾向、面密度とパフォーマンスの向上の可能性について、研究を始めていました。

彼は、NANDを使用できる可能性とパフォーマンス向上について、経営幹部向けの初のプレゼンテーションを実施し、同席していた同僚や幹部から好反応を得ました。しかし研究成果を製造過程に進めるには、彼自身の努力だけでは到底足りません。フラッシュとHDDという、異なるテクノロジーをもつ2つの大きなエンジニアリンググループが、1つの目標に向かって協力しなければなりません。NANDグループとHDDグループの強い結束が極めて重要でした。

フラッシュの設計エンジニアリング部門でシニアディレクターを務めるMark Murinにとって、このプロセスはプロジェクトの誇りでした。このプロセスではレガシーの設計と常識を真剣に見直すことが必要だった、とMurinは述べています。

「2つのまったく異なるエンジニアリンググループが同じ目標を持ちながらも、それぞれがレガシーの設計と考え方を変えていく。これは非常に価値のあることです。私たちには、非常に新しい画期的なものを作り出そうとする共通の目標がありました。どちらの側も要求に対してオープンで、新しいテクノロジーを学ぼうと意欲的でした」。

ウエスタンデジタルのお客様に向けて、データストレージの需要の急増に対応できる製品を作り出すこと。これが最終目標でした。

ニーズの高まり

IDCによれば、昨年全世界で生成または複製されたデータは約64ゼタバイトにのぼります。そして、今後5年間に生成されるデジタルデータは、デジタルストレージ導入以来生成されたデータの倍以上になることが予想されます。そのため、世界のほぼ全セクターの業種は、かつてないペースで生成される大量のデータを効率的に格納できる方法を求めることでしょう。
とはいうものの、これは思ったよりも複雑です。HDDの場合、ストレージを増やす簡単な方法は、ディスクと書き込みヘッドを増やすことですが、これは必ずしも費用対効果の高い方法ではありません。

ウエスタンデジタルのHDD研究開発部門でエンジニアフェローを務めるBill Boyleは、OptiNANDプロジェクトの着手にあたり、アーキテクチャに関して主に2つの目標があったと述べています。それは「容量の増加」と「パフォーマンスの向上」です。
「ドライブあたりのテラバイト容量を増やせば、お客様はテラバイト単価の点で恩恵を受けることができます。もう1つのカテゴリはパフォーマンスです。つまり、コマンドをどれだけ速く実行できるか、ということです」。

DRAMの使い方を見直す

パフォーマンス強化は、何かをいかに速く実行するかだけではありません。実行頻度も重要です。具体的に言えば、NANDを使用することで、必要となる隣接トラック干渉(ATI)のリフレッシュ頻度は削減されます。
ドライブにディスクを追加する以外に、実績のある容量追加方法として、書き込みトラック同士を詰めて密度を上げる方法があります。高速道路で言えば、レーンを狭めて車線を増やすことに相当します。
とはいえ、ハードドライブに多くの書き込みができるのは、書き込み中のセクターに隣接するセクターに磁気干渉のリスクがない場合に限ります。セクターが干渉を受ける回数、セクターに再書き込みされたタイミング、書き込みヘッドの位置は、重要なドライブメタデータであり、これらはDRAMに格納されます。DRAMはメタデータの精度に制限があるため、ドライブは時に、データが書き込まれた正確なトラックと位置を推測しなければなりません。正しいデータにアクセスするために、ドライブは戻ってデータを再度読み取り、データ破損を防ぐために再度トラックに書き込みます。
実際には非常に短時間で行われるこの一連のプロセスをATIリフレッシュと呼びます。トラック同士を詰めて容量を増やす場合、データ破損を防ぐために、リフレッシュ前に可能な書き込み回数を減らす必要があります。そしてリフレッシュが増えると、ドライブの読み取りと再書き込みの回数が増えるため、レイテンシーが増えます。
Hallは述べています。「それほど古い世代ではありませんが、以前は、書き込みが10,000回に達した時点で両側のセクターをリフレッシュする必要がありました。トラックを詰めるにつれ、その回数は100、50、10と減っていき、現在一部のセクターでは6という低い数値となっています」。
これは微妙なバランスです。書き込みトラックを何度も狭くすれば、パフォーマンスへの影響が許容できないレベルになるためです。ここで重要な役割を果たすのが、OptiNANDのNAND拡張です。
iNANDは統合には最適な選択でした。スモールフォームファクター、高速性、不揮発性を特徴とする既存のメモリ技術であり、DRAMまたはNOR型フラッシュよりはるかに多くのキャッシュを格納できるためです。
Murinによれば、さまざまなオプションを評価する際、HDD側のエンジニアはマネージドフラッシュメモリを求めていました。Murinは述べています。「iNANDは超小型で高速大容量の既存のテクノロジーです。NANDはDRAMより高密度、低価格ですが、書き込みに時間がかかります。NANDは管理が必要です。そこで候補にあがったのがiNANDです」。

書き込みキャッシュ: 有効化すべきか、無効化すべきか

ある人にとって、データがいつディスクに物理的に書き込まれるかは重要ではありません。システムがデータを受信し、不揮発性ストレージへの書き込みのためにキューに配置したことが検証されれば十分です。これが、書き込みキャッシュ有効モードです。
一方、別の人にとっては、データがディスクに書き込まれて安全に格納されるまで、ドライブで他の処理が行われないことが非常に重要です。時間がかかるかもしれませんが、HDDの動作を妨げるような停電その他の事象が発生した場合、書き込み通知があれば、データが無事に格納されたことがわかります。これが、書き込みキャッシュ無効モードです。
書き込みキャッシュを有効化すると、ドライブの動作がやや動的になります。書き込みと読み取り(およびリフレッシュ)をできるだけ効率的な順序でスケジューリングできるためです。そのため、パフォーマンスは向上します。ただし、突然の停電の際、ドライブが実際にデータをディスクに書き込めない可能性がわずかながらに存在します。
しかしOptiNANDを使用すれば、データは不揮発性NANDメモリに保存されるため、データロスを回避できます。

Boyleは述べています。「不揮発性キャッシュが使用できれば、ドライブ内に十分な電力があるため、取得したデータが失われる前にNANDに書き込むことができます。書き込みキャッシュが無効の設定でも、DRAMのデータをNANDに残すことができ、停電の場合でもデータは安全です」。
たとえば、何らかの理由で、大きなデータバッチの書き込み処理中に停電が発生したと仮定します。OptiNANDドライブのシステムオンチップ(SoC)は、ドライブ内の回転ディスクによって生成された回転力を使用して、1秒以内に内部コンデンサーに給電し、キャッシュ内のデータが不揮発性NANDに転送されるまで給電を続けます。以前、iNANDコンポーネントがなかった頃は、データが失われる可能性がありました。
パフォーマンスの大幅なトレードオフが今後発生しないことを証明するために、Hallはシミュレーターでランダム書き込みのチャートを作成し、書き込みキャッシュを有効にした場合と無効にした場合のパフォーマンスには実質的に差がないことを示すことができました。
彼は述べています。「場合により、パフォーマンスは最大で80%向上します。I/O制限に直面していたお客様は、書き込みキャッシュを有効にすることで、パフォーマンスの大幅向上と容量の有効活用を両立させることができるのです」。

今後のロードマップ

これは明らかに終点ではなく、ウエスタンデジタルが実装を予定している機能と製品アップデートのロードマップにおける最初の通過点に過ぎません。現に、Hallをはじめとするウエスタンデジタルのリーダーは、10年以内にドライブの容量は50TBに達すると予想しています。

現在、新しいアーキテクチャは最終開発段階に入りつつあり、一部のHDDのお客様とともにテストを実施中です。しかし将来は、ハイパースケール、クラウド、スマートビデオ、NAS、業務用外部ストレージ、プラットフォーム、JBOD、コールドストレージなど、多くのセグメントにOptiNANDを提供する意向を明らかにしています。
実際、OptiNANDアーキテクチャは、ウエスタンデジタルのHDD側とNAND側の協力から得られた勝利です。このプロジェクトには、両部門のほぼすべての分野と専門技術が投入され、常識への挑戦が数多く行われました。
どのように機能を決めるのかを問われると、Hallは、チームを信頼すること、そして優れたアイデアを引き出すために障壁を取り除くことが重要だと述べました。
「扉を開き、システムへの制約を取り除くことです。たとえば、『僕たちのいる世界はここだけど、この制約がなくなれば何ができると思う?』と問いかけます。ここから、新たなチャンスを思い描き、調査を重ね、最終的にこのチャンスを実装することができるのです」。

OptiNANDの詳細については、プレスリリース技術概要(英文)をご覧ください。

著者: Owen Lystrup
※Western Digital BLOG 記事(AUGUST 31, 2021)を翻訳して掲載しています。原文はこちら

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