2021年09月17日
「次世代ってなに?」 SSDがもたらすゲームの進化

昨年の11月、ソニーとマイクロソフトが最新の家庭用ゲーム機を発売しました。これらの製品のプレスリリースでは、数々の新しいゲームや機能が追加されただけでなく、これまで捉えどころのなかった「次世代」という言葉が復活しました。今まで定量化できない「次世代」という言葉の定義をあえて定量化しようという試みが長年続いてきました。ゲームで「次世代」を規定するポリゴン数があるわけではありません。「次世代」というのは、他に類を見ない仮想体験の中で、ビジネス、アート、エンジニアリングが出会う瞬間に、これまでは不可能だった感覚や体験を表現できることなのではないでしょうか。

これまで「次世代」といえば、処理能力がもっぱら話題の中心でした。90年代は、ゲーム画面の情報量や高速スクロールなどでしたが、21世紀になると、主題はCPUとGPUに移っていきました。ゲーム機のクロック速度はどれくらいか?コアはいくつあるか?アクセスできるメモリ容量は?処理が高速化するほどゲームの質が向上するという公式は明らかで、ゲーム業界全体で、最も速く、最も強靭で、最もパワフルなゲーム機の競争が始まりました。

しかしこのレースも、ソニーのPlayStation 5とマイクロソフトのXboxシリーズ X/Sのリリースによって、終わりに近づいているかもしれません。今最も注目されているコンポーネントは、いかなる種類のプロセッサでもなく、ソリッドステートドライブ(SSD)となりつつあります。ゲーム世界をレンダリングしてシミュレートするには処理能力こそが重要でしたが、ゲームサイズが巨大化した現在では、その重要性が薄れています。最近のゲームでは、膨大な量のデータを超高速で移動させる必要があります。そこで活躍するのがSSDです。これにより開発者は、高品質なゲームを迅速かつ調和のとれたプロセスで提供することができるようになりました。ビデオゲームのウェブメディアEurogamerによる最近の調査では、SSDの採用によりゲームのロード時間が最大62%短縮されることがわかっています。

こうした高速なドライブの急激な普及は、業界に大きな変化をもたらしています。SSDは、ゲームの作り方を変えるだけでなくプレイする方法も変えます。

ウエスタンデジタルのフィールドエンジニアリング担当ディレクターであるジュン・リュウ(Jun Liu)は、新型ゲーム機のSSDについてのインタビューで、「このようなものはこれまでに見たことがありません。前代未聞です」と述べています。

SSDはゲーム開発をどう変えるか

まず、この業界においてフラッシュメモリーのストレージがゲーム機そのものをどのように変化させているかを理解することが重要です。2017年3月に発売されたNintendo Switchは、フラッシュメモリーを採用した初の家庭用ゲーム機でした。フラッシュストレージにより、Switchをどこにでも持ち出したり、テレビに接続して従来のテレビゲーム機としても楽しむことができます。携帯に便利な小さなSSDは、ゲーム体験に新たな柔軟性をもたらしたことで、発売されてから7,000万台以上の販売を牽引しています。

ソニーとマイクロソフトは、最新のゲーム機にソリッドステートドライブを搭載しましたが、これがゲーム機全体にさまざまなメリットをもたらしました。リュウは、SSDのサイズが小さいため、PS5とXboxシリーズX/Sに冷却用スペースが広がり、動作に必要な電力も削減することができたと指摘しています。このようにSSDによる省スペース化と省電力化によって、両社はより優れた処理コンポーネントを搭載しながら、動作温度を低く抑え性能を向上させることができたのです。

また、SSDはゲーム開発そのものにも大きな変化をもたらしています。Echtra Games社の共同創設者兼ソフトウェアエンジニアのジャスティン・ミラー(Justin Miller)氏は、彼のチームにとって、SSDへの切り替えがいかに影響力が大きいかを説明し、ネットワークエンジニアからアーティストまで、あらゆる人々に役立っていることを力説しています。「[ハードディスクドライブ]を搭載した効率的なパッケージの模索に多くの時間を費やしてきましたが、それが不要になったことはとても意義深いことです」とミラー氏はインタビューの中で語っています。開発者にとっては、作業に費やす時間が短縮されたことで、「プレイヤーが夢中になれること」の開発に注力できるようになる、とミラー氏は述べています。

さらに彼は、SSDによってゲームの表現力が向上する点にも言及し、「さらにきめ細やかな、スケールの大きなシーン」を忠実に表現できることを示唆しています。ヒットを狙った映画のために制作されたものであれ、現実の生活の中でスキャンされたものであれ、高品質の素材はすでに存在しています。普遍的な問題は、それらをビデオゲームに取り込む方法にあります。SSDがこれを可能にしてくれます。「SSDさえあれば欲しいものを読込んでくれる、というのは本当に素晴らしいことです」とミラー氏は述べています。

今できることだけでも、可能性は計り知れません。ゲームにおける次のステップは、美しく高精細な素材と多様なキャラクターアニメーションの膨大なプールを開発し、プレイヤーがまったく気付かないほどの時間でロードすることです。現実世界を反映してシミュレートすることができるゲームが増えるほど、開発者はプレイヤーの心をつかんで離さないリアルな物語や体験を生み出すことができます。

SSDはプレイヤー体験をどう変えるか

より大きく、より良く、より速く、より強く。これらは皆すべて素晴らしい響きですが、プレイヤーにはどのような影響があるのでしょうか。

まず、これらの2つの主要なゲーム機を見ると、どちらも新しいSSDを活用した独自機能が備わっています。マイクロソフトは、「クイックレジューム」と呼ばれる機能を提供しています。これは、プレイヤーがプレイセッションの途中でゲームを中断して、別のゲームを起動して、以前中断したところから数秒以内にプレイを再開できるという機能です。ロード画面もなく、スタートボタンを押すこともなく、数秒以内にゲームを再開できます。ウェブメディアGameSpotは、クイックレジュームを「文字通りのゲームチェンジャー」と称し、ロード時間が10秒を切ったことに驚きを示しています。

クイックレジュームは、プレイセッションの構成を変更することもできます。たとえば、現実にやるべき仕事に背を向けて、夜ビデオゲームをプレイするために座っているとします。シングルプレイヤー用ゲームを選んでロードしてプレイします。その45分後に、友人が自分の大好きな対戦型のシューティングゲームを1、2試合やらないかと誘ってきました。今のゲームを中断して、すぐにマルチプレイヤーメニューに移動して、数秒後には友人との対戦を待ち行列に入れることができます。対戦が終わってシングルプレイヤーゲームに戻ると、中断した画面が表示されます。

ソニーPS5のコントロールセンターの新機能「アクティビティ」と呼ばれるサービスでは、プレイの再開と時間の節約に別のアプローチを採っています。システムのUIには、ゲームに関連付けられた一連のカードがあります。これらのカードには、アクティビティ、明確な目標と目的を持つ詳細なタスク、タスクの完了度、およびタスク完了までの推定時間が記録されます。プレイヤーが、ひとつのアクティビティを選択すると、タスクが開始された瞬間にゲームがロードされ、クイックレジュームのようにロード画面やタイトル画面はスキップされます。プレイヤーは、前回何をしていたか思い出す必要はなく、すぐにゲームに没入して楽しい時間を過ごすことができます。

VICE誌のライター、パトリック・クレペック(Patrick Klepek)氏は、この機能によってPS5用の主力ゲーム「Marvel’s Spider-Man: Miles Morales」のプレイ方法がどのように変わったかを紹介しています(※)。「マップをスキャンして敵の基地を見つけて侵入することができます。または、カードを1枚取り出して、すぐにアクティビティにドロップすることもできます」とクレペック氏は記事に書いています。「Miles Morales」のようなゲームは、オープンワールドでゲーム内のマップを埋め尽くすほどのタスクで溢れた広大な世界を提供します。オープンワールドゲームでは、単に飛び入りで参加しても何も成し遂げることができない場合があります。それを解決するのがアクティビティです。クレペック氏は次のように説明しています。「アクティビティを見つけ、アクティビティに進み、アクティビティを完了します。チェックしてみましょう。例えば、PS5はこのアクティビティの攻略に15分かかると言っている。そして私には10分しか残されていない。それなら別のことをしよう、といった具合です」。

そして、効率化はこれだけでは終わりません。リュウは、新型ゲーム機に搭載されたドライブのインテリジェンスを強調しています。「ハウスキーピングタスクをバックグラウンドで実行」可能になりました。つまり、ユーザーが新型ゲーム機を使って好きな映画や番組をストリーミングしている間に、ゲームの更新やインストールを行うことができるのです。

で、次世代って何?

平均的なプレイヤーは毎週6時間20分、1年間で約2,305時間をゲームに費やしていると言われています(※2)。SSDが一度に節約するのはわずか数秒ですが、1年間で節約できる時間を考えると、プレイヤーは待ち時間を大幅に短縮し、より多くの時間をプレイに費やすことができます。結局のところ、そこが重要なのではないのでしょうか? プレイヤーにもっと好きなことをさせてあげましょう。

「次世代」とは、パワーやスペックではなく、ビデオゲームが私たちの生活にフィットする方法を完全かつ包括的に再構成する進化だということがわかります。特に、ゲームユーザーの年齢が上がり多忙になるにつれて、1回のゲームプレイセッションにおいて正味のプレイ時間をより長くすることが重要になります。パーティーへの招待やゲーム待ちでのトラブルシューティングに費やす時間が減れば、大切な趣味を友人と共有する時間が増えます。バックグラウンドアップデートにより、ダウンロードやインストールに何時間もかからずに済むので、ゲームをしたいと思ったときに直ぐ始めることができます。

このような進化において、データが脚本の役割だとすると、SSDはスター級の演者ということになります。ミラー氏は次にように表現しています。「我々がプレイヤーに提供しているのはデータの塊です。そのデータに制約がなければ、より多くの体験を生み出すことができます」。

つまり、VRを実現するむやみに高速なCPUでも、また、数えきれないほどのポリゴンをレンダリングするかさばったGPUでもありません。ツールこそが、ゲーム業界のあらゆる側面を盛り立て成長させるのです。開発者からプレイヤーに至るまで、SSDはゲームを生活に溶け込ませる方法を変えつつあるのです。

※…パトリック氏の記事はこちら(VICE誌:英文)
※2…引用元: Limelight Networks発表「オンラインゲームの現状ー2020年」はこちら

著者: Thomas Ebrahimi

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