2021年05月28日
1億台を超える監視カメラ-AIとビデオによるエッジの変革

2019年の監視カメラ市場では、1億1600万台以上のネットワークカメラが出荷され、毎日約9ペタバイトの動画データが生成されています。動画の需要やAIの利用が増えるにつれデータ量は増え続けており、エッジにおけるアーキテクチャの再考に迫られています。(※1)

AIの目で見る - コンピュータは私たちの世界をどう見ているのか

ここ数年でAIについて学んだことがあるとすれば、それはAIが狭い範囲のタスクを驚くほどうまくこなすということです。画像認識等に使われるコンピュータビジョンは、必ずしも人間と同じように世界を見ることをコンピュータに教えるものではありません。コンピュータが人間の世界を捉え、分析し、学ぶことができるようにするためのものなのです。

物体認識、動作の検出、物体や人の追跡やカウントなど、コンピュータの知能を適切な用途に使用することで、AIは大きな価値を発揮します。 映像、AI、そしてセンサーからのデータが融合し、業界を超えた新しいサービスが生み出されていくのは、当然のことかもしれません。

よりスマートな使用例

リアルタイムのビデオ分析の需要は、セキュリティに関連したものや監視活動が中心ですが、近年、様々な市場に活用の場が広がっています。分野は多岐にわたり、医療用アプリケーション、スポーツ分析、スマートファクトリー、交通管理、さらには農業用ドローンなどにもこの技術が活用されています。

インテリジェント技術の活用により、新世代の「スマート」な使用例が生まれています。例えば、”スマートシティ”では、カメラとAIが交通パターンを分析し、交通信号を調整することで、車両の流れを改善し、混雑や大気汚染を減らし、歩行者の安全性を高めます。 また、”スマート工場”では、AIが得意とする狭義のタスク、例えば、生産ラインの欠陥や逸脱をリアルタイムで検出し、エラーを減らすために生産を調整するといったことが行われています。スマートカメラは、品質保証に非常に有効です。欠陥の早期発見により、コストを大幅に削減できます。

スマートビデオの進化は、5Gのような通信インフラの進化と共に進んでいます。こうした技術が一体となって、エッジのアーキテクチャに影響を与えています。そして、これらの技術は、専用ストレージの需要を後押ししています。いくつかの技術的なトレンドをご紹介しましょう。

1. あらゆるものの増加

カメラの数や種類は増え続けており、新しいタイプのカメラには新しい機能が搭載されています。カメラは、より広い視野をカバーし、多彩なアングルが可能になり、より多くのものを捉えたり、撮影したりできるようになります。また、よりリアルタイムな映像を撮影し、AIのトレーニングに利用することもできます。

同時に、より高い解像度の4Kやそれ以上の動画に対応するカメラも増えています。映像が精細であればあるほど、そこからより多くのインサイトを抽出することができ、AIアルゴリズムがより効果的になります。さらに、新しいカメラは動画データのストリーミングによる送信だけでなく、低帯域幅のモニタリングやAIのパターンマッチングに使用する低ビットレートのストリームも追加であわせて送信しています。

この種のワークロードの最大の課題は、常時稼働しているということです。交通、セキュリティ、製造など、これらのスマートカメラの多くは24時間365日稼働しています。ストレージ技術は、それに対応できなければなりません。まず、高品質な映像を撮影するために、ストレージはデータ転送速度とデータ書き込み速度を向上させるように進化してきました。しかし、それ以上に、カメラに搭載されるストレージ技術は、長寿命で信頼性の高いものでなければなりません。

2. エンドポイントにはあらゆる形がある

ビジネスでも、科学的な研究でも、さらには個人の生活でも、私たちは世の中のあらゆるものについてデータを収集しようとしているようです。その結果、分析可能な新しいタイプのデータを撮影して取り込むことのできる、新しいタイプのカメラが登場しています。

例えば、新型コロナウィルスの猛威により、体温を測定するサーマルカメラがさまざまな場所に設置されています。また、環境リスクの高い場所には防爆カメラが使われています。カメラは、ビルの屋上、移動中の車内、ドローン、さらにはドアベルまで、あらゆる場所に設置されています。

私たちがストレージ技術を設計する際には、設置場所やフォームファクターを考慮しなければなりません。また、カメラへのデータのアクセス性(またはアクセスの難しさ)を考慮する必要もあります。カメラは高いビルの上にあるのか、それとも人里離れたジャングルの中にあるのか。そのような場所では、極端な温度変化にも耐える必要があります。重要な動画データを長期間、確実に記録し続けるためには、これらすべての可能性を考慮する必要があります。

3. 専用AIチップセット

カメラの演算能力の向上は、デバイスレベルでの処理を可能にし、エッジでのリアルタイムな判断を可能にします。最近では、AI機能を向上させるカメラ用の新しいチップセットが登場しており、さらに高度なチップセットでは、カメラ内のディープラーニング分析のためのディープニューラルネットワーク (DNN) 処理が追加されています。AIはより賢く、より高性能になっています。

調査機関のOmdiaによると、ディープラーニング分析機能を内蔵したカメラの出荷台数は、2019年から2024年の間に毎年67%の割合で増加するとのことです。(※2) これは、カメラ内で起こっている技術革新を反映しているだけでなく、効果を発揮するためには大規模なビデオデータセットを必要とするディープラーニングがカメラ内でも行われることが期待され、カメラ内のストレージの重要性が高まっていることを示しています。

標準的なセキュリティカメラを採用していても、高度なAI機能やディープラーニングによる分析を可能にするために、AIを強化したチップセットやディスクリートGPUが、ネットワークビデオレコーダー(NVR)やビデオ分析アプライアンス、エッジゲートウェイに採用されています。NVRのファームウェアとOSのアーキテクチャは、メインのレコーダーにこれらの機能を追加するために進化しています。その結果変化するワークロードに対応するために、ストレージも進化しなければなりません。

最も大きな変化の一つとしては、単一および複数のカメラから得たストリーミングデータを保存する技術を、さらに進化させる必要があることです。今日では、リアルタイムAIからのメタデータや、パターンマッチングのためのリファレンスデータも保存する必要があります。これにより、ワークロードがよりダイナミックになり、新しいタイプのワークロードに合わせるために、ストレージデバイスの仕立て方が大きく変わりました。

4. ディープラーニングにはまだ高い能力のクラウドが必要

カメラやレコーダーのチップセットの演算能力が向上しているのと同様に、今日のスマートビデオソリューションでは、ビデオ分析やディープラーニングのほとんどが、個別のビデオ分析アプライアンスやクラウドで行われています。そこにはビッグデータが存在しています。

また、ビデオ以外のセンサーデータを使用するより広範なIoTアプリケーションも、より効果的でスマートなAIを実現するために、ディープラーニングクラウドを活用しています。

これらの新しいAIワークロードをサポートするために、クラウドはいくつかの変革を遂げてきました。クラウド内のニューラルネットワークプロセッサは、大規模なGPUクラスタやカスタムFPGAを採用しており、数千時間のトレーニングビデオやペタバイト級のデータを入力しています。これらのワークロードは、すでに1台あたり20TBをサポートしている大容量なエンタープライズクラスのハードドライブ(HDD)や、高性能なエンタープライズSSD、プラットフォーム、ディスクアレイに依存しています。

5. ネットワーク

有線・無線インターネットは、スケールを拡大するとともに、設置を簡易にし、セキュリティカメラの爆発的な普及を後押ししてきました。しかし、それはLANやWANのインフラが存在する環境に限られていました。そして今、5Gが登場します。

5Gにより、大都市レベルでのカメラの設置場所の選択肢を増やし、設置方法も簡易化していきます。 このように展開が容易になることで、新たな広がりが期待されます。カメラとクラウドの両方において、活用事例が増え、さらなる進化がもたらされます。

例えば、カメラは、ローカルネットワークに依存することなく、集中管理されたクラウドに直接接続できるスタンドアローン型にすることができます。また、5Gに対応した新しいカメラは、サードパーティのアプリケーションを読み込んで実行できるように設計されており、より幅広い性能が期待できます。 5Gがもたらすスマートビデオの革新は、まさに無限大といえます。

しかし、自律性が高まれば、カメラはさらに大容量のストレージを必要とします。そして、新しいアプリによる機能の変化に最適に対応するためには、耐久性、容量、性能、電力効率の新しい組み合わせが必要になります。私たちは新しい機能開発によって、こうした課題の解決に取り組んでいます。

エッジにおけるストレージの進化をリードする

スマートビデオの世界は素晴らしき新世界であり、複雑でエキサイティングです。新しいワークロードに対応し、エッジやエンドポイントでよりダイナミックな機能を実現するために、アーキテクチャの更新がすすんでいます。同時に、バックエンドやクラウドでは、ディープラーニングによる分析が進化し続けています。

ウエスタンデジタルは、ハードディスクドライブ技術とフラッシュ技術の両方における、強力なイノベーションの歴史を持っています。 私たちは、スマートビデオのマーケットリーダーやイノベーションリーダーと密接に連携し、今と未来の最先端のAI対応アーキテクチャに対する理解を深めています。ビデオとメタデータのストリーム管理の変化が、ストレージデバイスのワークロードにどのような影響を与えるのかに注目しています。

カメラであれ、レコーダーであれ、クラウドであれ、ワークロードの変化に対する理解は、ストレージ技術の継続的なイノベーションによって新しいアーキテクチャの変化を増強するために必要不可欠です。 だからこそ、私たちは、ストレージのファームウェアとインターフェース技術を最適化し、調整し、必要に応じて再設計して、ストレージ技術がスマートビデオの需要に対応し続けるだけでなく、ストレージ技術によって新しい機能やスマートな利用事例を推進することを目指しています。

※1…2020年8月に調査機関Omdiaが発表した調査結果報告(詳細はこちら)、およびWestern Digital Corporationの推測をもとに算出。
※2…同上、Omdiaの調査結果報告による。

著者:Sophie Dillon Brian Mallari
※Western Digital BLOG 記事(SEPTEMBER 28, 2020)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

戻る