2021年05月14日
8Kテレビがストレージに与える真の影響

私たちのテレビ視聴体験やコンテンツの利用方法は、オンデマンドのストリーミングサービスが登場するよりもはるか昔に、デジタルビデオレコーダー(DVR:※1)によって根本的に変わりました。これにより衛星、ケーブル、地上波のデジタル放送などのコンテンツは、テレビの下に置かれたDVRに常に保管できるようになりました。

この利用形態は今でも非常に多く行なわれています。何百万人もの消費者が、新しいストリーミングサービスやアプリケーションと共に、映画やドラマなど、定額制の動画配信サービスを楽しんでいます。また、アプリケーションベースのサービスが放送局のプラットフォームに統合され、より洗練された「TVハブ」になっているケースもあります。いまもなお、消費者のコンテンツ利用方法は変化し続けています。

インターネットの接続性が飛躍的に向上し、より高性能なクラウドベースのサービスが提供できるようになりました。つまり、大部分のデータが遠隔のクラウドに保管されるようになったということです。デジタルコンテンツの利用形態の変化に伴い、コンテンツの高画質化も進んでいます。今、大きな話題になっているのは、3,300万画素以上の圧倒的な画素数に対応した8Kテレビです。しかし、ここでは視聴デバイスのストレージに対する需要の減少という、ある種のパラドックスが起きています。

より高画質のコンテンツを考えると信じられないかもしれませんが、これは8Kテレビの普及を加速させるきっかけになるでしょう。その理由を説明します。

8Kについて

8K(正確には7,680)とは、現在放送されている8K Ultra HDテレビ規格を構成する水平方向の画素数のことで、それ自体はSD、HD、4K UHDの順に進化しています。8K画像の総画素数は(7,680×4,320)で、前述したように3,300万画素をわずかに超えています。

今年に入って、フラウンホーファー研究機構(Fraunhofer Society)から、VVC(Versatile Video Codec)として知られるH.266という新規格のプレスリリースがありました。この新しいコーデックは、従来のH.265コーデックと比較して効率が50%も向上しています。(※2)

さて、コーデックとは一体何なのでしょう。そして8Kテレビへの進化を促進するうえで、なぜコーデックが重要なのでしょうか?

コーデックとは?

生の非圧縮高解像度デジタルコンテンツは、膨大なストレージ容量を必要とし、放送局からエンドユーザーに送信するには容量が大きすぎます。例えば、2時間の8Kビデオを「映画品質」で非圧縮録画した場合、ファイルサイズは35TB(テラバイト)を超えます。フレームレートや色のビット深度を高めると、さらに大きくなる可能性があります。

消費者がコンテンツを利用できるようにするために、エンコーダで圧縮し、デコーダで解凍します。これを「コーデック」と呼びます。

ビデオコーデックは、複雑な圧縮アルゴリズムを用いて、デジタルビデオの非圧縮フレームから類似点を取り除き、相違点をエンコードすることで機能します。コーデックの効率は、伝送されるブロードキャストビデオ信号をデコードする計算能力に依存します。

通常、使用されるコーデックは「非可逆」(一部のオーディオコーデックは可逆)であり、結果として得られるデコードされたビデオ再生は、元のビデオと常に同じであるとは限りません。したがって、損失を最小限に抑えつつ、圧縮率を最大限に高めることができるコーデックは、ブロードキャストチェーンの中で重要な役割を担っているのです。一般的に、エンコードされたビデオストリームは、メガビット/秒(MB/秒)で測定され、「ビットレート」と呼ばれます。

ビットレートについて

ほとんどのコーデックは可変ビットレート(VBR)を使用しています。これは、フレーム間で激しく画像が変化する群衆が映る映画のワンシーンのように、ビットレートが画像の複雑度に基づいてリアルタイムで変化するケースに対応するためです。ただし、アプリケーションによっては、ビットレートを制御する必要がある場合に固定ビットレート(CBR)を使用することもあります。

ビットレートは、使用するコーデックと画像の複雑度(フレームレート、カラーエンハンスメントなど)によって大きく異なります。また放送局によっては、利用可能な帯域幅を考慮して圧縮率を上げることもあります。

以下に、さまざまな精細度の既存ビットレートを示します。

SD – 標準画質、0.5~2MB/秒
HD – ハイビジョン、3~9MB/秒
4K – 4K Ultra HD、10~30MB/秒
8K – H.265使用、60~80MB/秒

H.266の登場

最新のH.266によって既存のH.265ビットレートが50%改善されると、8Kコンテンツで30~40MB/秒になります。8K/12ビット/60Hzフォーマットの非圧縮ビットレートが約72ギガビット/秒(GB/秒)であることを考えると驚くべき数値です。
なおH.266はデコードするハードウェアが現在開発中のため、製品はまだ発売されていません。

新しい規格が出るたびにコーデックの効率化が進み、一定の効果が得られます。 このグラフは、H.265までのビットレート低減の進化を示しており、H.266はさらに50%の改善が見込まれています。

H.266を発表したフラウンホーファー研究機構は、1970年代からコーデックの最前線で活躍しており、私たちになじみの深いコーデックのひとつであるMP3の開発にも携わっています。

8K、コーデック、その先の未来

デジタルコンテンツは、長年にわたって主に家庭でのテレビ視聴と結びついていました。しかし、今では、スマートフォンやタブレット、自動車まで、あらゆる場所で視聴できるよう作成され、利用されています。また自動車の自動運転機能も、ビデオ処理に大きく依存しています。

より効率的なコーデックの登場により、ネットワークが途切れることなく、また大容量のストレージを必要とすることなく、より多くのデバイスやエンドポイントにさらに高解像度の映像を提供するアプリケーションが生まれます。これらの新しいコーデックの恩恵によって、ゲームや仮想現実に新たなトレンドが到来することでしょう。この変革にストレージが不可欠であることは言うまでもありません。ウエスタンデジタルの製品は、多様な環境におけるデータの移動や保存の課題に対処する機能によって、これらの次世代アプリケーションを実現します。

8Kは全く新たな領域

8Kは全く新たな領域です。8Kとは、テレビのディスプレイのことではなく、データの効率性のことです。経済学では、「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれる効果があり、効率を向上させると、結果的に消費量が増えるという逆説です。たとえば、自動車のエンジン効率が良くなると、自動車の使用量が格段に増えます。コーデックの効率化によって、さらに帯域幅とストレージが利用可能になり、その他に必要になるのは処理能力だけになります。その結果、コーデックが効率化すると、逆に一層多くのデータストレージが必要になるのです。

※1 DVR…日本ではDVDレコーダー、ブルーレイレコーダーなどが一般的。
※2 引用(英文):https://newsletter.fraunhofer.de/-viewonline2/17386/465/11/14SHcBTt/V44RELLZBp/1

著者:Craig Lamb
※Western Digital BLOG 記事(DECEMBER 1, 2020)を翻訳して掲載しています。原文はこちらから。

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